【弁護士監修】飲酒運転で人身事故を起こしたときのリスクを徹底解説
公開日2022/11/15
更新日2022/11/16
カテゴリあおり運転・飲酒運転, 弁護士への相談・依頼
【この記事のポイント】
- 飲酒運転で人身事故を起こしたときのリスクがわかる
- 飲酒運転で人身事故を起こした場合に対応すべきことがわかる
飲酒運転で人身事故を起こした場合のリスクとは?
飲酒運転は大きく、酒気帯び運転と酒酔い運転の大きく2つに分けられます。
運転者に対して呼気検査を行い、規定されている以上のアルコール濃度が検出されると酒気帯び運転になります。
一方で酒酔い運転は、法律等で呼気中のアルコール濃度が明確に決まっているわけではありません。アルコールの影響によって運転に支障がある場合に酒酔い運転だとみなされます。
酒気帯び運転や酒酔い運転を行っただけで、さまざまなペナルティが科せられるリスクのある危険な行動ですが、人身事故を起こした場合、具体的にどのような刑罰がくだる可能性があるのでしょうか。
罰金や懲役刑を科されるリスクがある
酒気帯び運転と酒酔い運転は、道路交通法で禁止されている行為です。
違反し、有罪となった場合には懲役刑や罰金刑が科されます。
道路交通法で定められている具体的な刑罰は、次の通りです。
■ 酒気帯び運転…3年以下の懲役または50万円以下の罰金
■ 酒酔い運転…5年以下の懲役または100万円以下の罰金
これらの刑罰は検問等で飲酒運転が発覚したケースです。
人身事故を起こしてしまった場合には「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(以下、自動車運転処罰法)が適用されます。
飲酒運転によって人身事故を起こした場合、自動車運転処罰法2条に定められている、「危険運転致死傷罪」が適用される可能性があります。
危険運転致死傷罪では、人を負傷させた場合と死亡させた場合とでは異なる罰則が定められており次の通りです。
■ 人を負傷させた場合…15年以下の懲役
■ 人を死亡させた場合…1年以上の有期懲役
一見すると、人を負傷させた場合の方の罪の方が重く感じるかもしれません。
しかし、負傷の場合は有罪判決を受けたとしても、状況によって執行猶予付きになることもあります。
対して死亡させた場合、有罪が確定すると必ず刑務所に収監されます。
酩酊まではしていなくとも、アルコールによって正常な運転ができないおそれがある状態、または正常な運転ができない状態に陥って運転した場合でも自動車運転処罰法の第3条で次のような処罰が定められています。
■ 人を負傷させた場合…12年以下の懲役
■ 人を死亡させた場合…15年以下の懲役
自動車運転処罰法第2条あるいは第3条の危険運転致死傷罪が成立しなくとも、第5条の過失運転致死傷罪が成立する可能性もあります。
■ 過失運転致死傷罪の刑罰
7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金
例えば、飲酒した次の日、二日酔いの状態で運転して人身事故を起こした場合、呼気中に含まれるアルコール濃度関係なく不注意によって過失運転致死傷罪に問われる可能性があります。
また、呼気中に規定されている以上のアルコールが含まれていた等の場合には、同時に酒気帯び運転や酒酔い運転という道路交通法違反になるので、併合罪となります。
併合罪とは、1つの行為で複数の罪を犯したときに適用され、単独で罪を犯したときよりも、刑罰が加重されます。
過失運転致死傷罪に酒気帯び運転や酒酔い運転の罪が加算されると、刑罰の上限は以下の通りです。
■酒気帯び運転で過失運転致傷罪を犯した場合
10年6か月以下の懲役または150万円以下の罰金
■酒酔い運転で過失運転致傷罪を犯した場合
10年6か月以下の懲役または200万円以下の罰金
飲酒運転で人身事故を起こした場合、有罪になると懲役刑等実刑になるリスクは高いといえるでしょう。
自動車免許の停止や取り消しされるリスクがある
飲酒運転で人身事故を起こした場合には、刑事罰に加えて行政処分を受けることになります。
くだされる行政処分は違反点数によって異なり、飲酒運転による人身事故を起こした場合に引かれる点数は次の通りです。
違反行為 | 違反点数 |
---|---|
酒酔い運転 | 35点(専ら運転者の不注意での事故の場合) |
酒気帯び運転(0.25以上) | 25点 |
酒気帯び運転(0.15~0.25未満) | 13点 |
危険運転致死傷罪(死亡事故の場合) | 62点 |
危険運転致死傷罪(負傷させた場合) | 状況に応じて45点~55点 |
救護義務違反(ひき逃げ) | 35点 |
酒気帯び運転と酒酔い運転は基準が異なるため両方ともが成立するということがありますが、その場合にはより重い酒酔い運転が適用されることになります。
飲酒運転で人身事故を起こした場合、くだされる行政処分としては次のようなものがあります。
- 免許の停止(30日~最大180日)
- 免許の取り消し(再取得できるまでの期間1年~10年)
過去に交通違反がない場合、6点を超えると免許の停止処分、15点を超えると免許取り消し処分になります。
例えば、呼気内のアルコール濃度が0.15~0.25未満の酒気帯び運転の場合、90日間の免許停止処分となります。
ただし、同じ酒気帯び運転でも死亡事故等を起こした場合には、免許取り消し処分となり、再取得が可能になるまで数年単位かかる可能性が高いです。
高額な損害賠償金を支払わなければならないリスクがある
飲酒運転で人身事故を起こし死傷させた場合、刑事処分や行政処分だけでなく、損害賠償金を支払う必要があります。
損害賠償金とは、治療費・入通院の費用・休業損害・後遺障害逸失利益・慰謝料等、事故によって損害を受けた被害者の方に対して加害者が金銭的に補償することを指します。
交通事故の損害賠償額は双方の過失の度合いによって異なります。
双方の過失の度合いを数値にしたものを過失割合といいます。
飲酒運転は、通常の人身事故よりも過失割合が高くなる場合があります。
というのも、酒気帯び運転は運転者の著しい過失、酒酔い運転は運転者の重過失としてみなされる可能性が高いからです。
飲酒をしていた場合、加害者側の過失が加算され、被害者側の過失が減算される傾向にあります。そのため、通常よりも過失割合が大きくなり、負担しなければならない損害賠償金も増えることもあるのです。
任意保険に加入していれば、被害者の方に支払う損害賠償金については、保険会社が負担してくれますが、自賠責保険のみの加入だった場合には、莫大な損害賠償金を支払わなくてはならなくなるリスクがあります。
また、飲酒運転は慰謝料が高額になる可能性があります。
慰謝料とは被害者の方ご自身や、死亡事故の場合にはそのご家族が精神的苦痛を受けた対価として加害者に請求するお金です。
法律で禁止されている飲酒運転を加害者が行った結果、死亡事故になったり、後遺症の残るような負傷したりした場合、被害者の方やそのご家族が非常に大きな精神的苦痛を受けることは想像に難くありません。
そのため、慰謝料の請求額が高くなる傾向にあるのです。
同乗者や酒提供者等も罰則が科せられるリスクがある
飲酒運転は、運転者のみが罰せられるわけではありません。運転者が飲酒していることを知りながら同乗すると、同乗者に対して以下の罰則が科せられる可能性があります。
【同乗者に対する罰則】
■ 酒気帯び運転の場合…2年以下の懲役または30万円以下の罰金
■ 酒酔い運転の場合…3年以下の懲役または50万円以下の罰金
また、お酒を提供したひとに関しても、飲酒後車を運転することを認識していた場合には、次のような罰則が科せられることもあります。
【お酒提供者に対する罰則】
■ 酒気帯び運転の場合…2年以下の懲役または30万円以下の罰金
■ 酒酔い運転の場合…3年以下の懲役または50万円以下の罰金
飲酒運転は運転者のみならず、それを許容した周囲に関しても刑事罰が科せられるリスクがあるのです。
自転車による人身事故でも罰せられるリスクがある
飲酒運転の人身事故というと、自動車事故を想像しがちですが、自転車に乗って人身事故を起こしてしまった場合にも罰せられる可能性があります。
道交法に規定されている酒酔い運転は、自動車だけではなく自転車も対象です。
そのため自転車で酒酔い運転した場合には5年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
酒酔い運転によって歩行者を負傷させたり、死亡させたりすると「過失致死傷罪」、「重過失致死傷罪」、「業務上過失致死傷罪」に問われる可能性もあります。
更にいうと、相手を負傷させたりした場合に、その場から逃亡すると「ひき逃げ」の扱いになるケースもあります。
また、自転車と歩行者の事故であっても、歩行者が負傷・死亡した場合には、被害者の方やそのご家族から損害賠償金を請求される可能性があります。
損害賠償額は負傷の程度や状況によって異なりますが、高額な損害賠償金の支払わなければならなくなる可能性もあります。
飲酒運転で人身事故を起こした場合の対応とは?
飲酒運転は本来決してやってはいけないことですが、「少し飲んだだけだから」といって軽い気持ちで飲酒運転をしてしまった方もいらっしゃるかもしれません。
結果、人身事故を起こしてしまった場合、どのような対応をすればいいのでしょうか。
逃げることはせず警察や救急車を呼ぶ等の対応を行う
飲酒運転で人身事故を起こしてしまった場合には通常の人身事故と同様、「警察への通報」や、「救急車の手配」、「けが人の救護活動」、「交通の整理」等を行ってください。
というのも、道路交通法の第72条には交通事故を起こした場合次のような義務を定めているからです。
- 救護義務…けが人の救護活動を行う義務 (危険防止措置義務)、
- 危険防止措置義務…交通の危険を防止する義務
- 通報義務…事故現場に警察官がいない場合には警察に通報する義務
これらの義務を果たさなかった場合には、刑事上、行政上のペナルティが課せられる可能性が高いです。
特に、救護義務を果たさず事故現場から離れると、ひき逃げとみなされ、重い処罰がくだされてしまいます。
また、これらの法律上の義務を果たす他、自身が加入している保険会社に連絡しておきましょう。
被害者の方への対応は感情に配慮すること
任意保険に加入している場合、示談交渉等の事故後の対応は、基本的に保険会社が代行します。
しかし、被害者の方、あるいはそのご家族、遺族の方の中には、「加害者本人から謝罪を受けたい」という思いを抱くかたもいらっしゃいます。
このような場合に、保険会社だけに対応を任せてしまうと、「加害者として誠意ある行動をしていない」という印象を持たれてしまうことになりかねません。
被害者の方やそのご家族に悪い心象を持たれてしまうと、示談交渉がうまく進まなくなってしまうケースもあります。
そのため、できる限り被害者の方がけがをされている場合にはお見舞いに行き、被害者の方が亡くなられている場合にはお葬式に参加するようにした方が良いでしょう。
お見舞いの時にはお見舞品、お葬式の場合には香典は必須事項と考えてください。
ただしこれらの行動はあくまで被害者の方やそのご家族の方の心情に配慮することを前提としています。
「加害者と顔を合わせたくない」と伝えられた場合には、直接顔を合わせないよう、手紙等でお詫びの気持ちやお見舞品、香典等を渡すことを考えてください。
保険会社に連絡をとりこまめに示談の状況を確認する
交通事故後の示談交渉等の対応は一般的に保険会社に代行してもらうことになります。
ケースによって、保険会社の示談交渉の遅れている場合や、保険会社の対応が被害者の方の処罰感情が増幅している等のトラブルが想定されるため、進捗状況は自分でしっかり把握しておきましょう。
示談交渉の進捗や被害者の方の処罰感情は、刑事事件の量刑面に関わる重要事項です。
そのため示談交渉の進捗状況が悪かったり、被害者の方から保険会社の対応が悪いと指摘を受けたりした場合には、保険会社に連絡し、相談した方が良いです。
また弁護士に相談し、対応を依頼することも1つの方法です。
飲酒運転で人身事故を起こした場合は弁護士に相談するべき
飲酒運転で人身事故を起こしてしまった場合にはできるだけ早くに弁護士に相談することが大切です。
交通事故は刑事事件に発展することも多く、その場合の量刑や起訴不起訴の判断、そして慰謝料などの損害賠償金の額などは被害者の方の感情に大きく影響されることになります。そのため、被害者の方の感情に配慮しつつ、事故後の対応をする必要があり、弁護士に相談することで適切なアドバイスを受け、被害者の方への対応を代行してもらうこともできます。
また、早期に対応、解決することができなければ、その影響は加害者本人だけでなく、その家族にも及んでしまうことがあります。
弁護士への早期の相談は加害者本人にとって有利に働くだけでなく、加害者本人、そしてその家族が今後生きていく上での悪影響を最小限にとどめることにもつながります。
まとめ
飲酒運転で人身事故を起こしてしまうということは、非常に重い責任を負うことになります。
これは、加害者本人が刑事罰を受ける、あるいは行政処分を受けるといった、加害者本人の不利益だけでなく、その家族にも影響を及ぼす可能性があります。
そのため、実際に飲酒運転で人身事故を起こしてしまったときには、早期に弁護士へ相談することを考えましょう。
弁護士に依頼すれば、依頼者の不利益を最小限にとどめるような弁護活動に尽力してくれますので検討してみてください。
この記事の監修者
法律事務所MaMoLaw森 亮介弁護士
【所属】広島弁護士会
刑事事件はご自身の今後の人生を揺るがしかねない大きなトラブルです。
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