脅迫罪の概要から弁護士の選び方まで:加害者のためのガイド
公開日2023/10/27
カテゴリ脅迫罪・恐喝罪
脅迫罪は誰しもが日常の些細な一言、さらにはSNSの投稿などで問われかねない犯罪です。
また、脅迫罪は言葉による犯罪であるため、その意図を有していないことも多く、相手が被害届を出すなどしていて、突然事情聴取や逮捕されるということもあります。
ここからは脅迫罪とは何かというところから弁護士の選び方、その後の手続きについて解説していきます。
脅迫罪の弁護士を探す前に知っておきたいこと
まずは脅迫罪とはどういった犯罪であるか、そして弁護士のかかわり方について簡単にみていきます。
脅迫罪の概要
脅迫罪を簡単に説明すると、被害者やその親族に対して危害を加えるような言動によって、相手方を怖がらせることをいいます。
脅迫罪は直接被害者本人に告知するだけでなく、SNSの投稿などで害悪の告知することも犯罪となりえます。
加害者側弁護士の役割
加害者側の弁護士の役割は、刑事上の手続きを支援することによって、被疑者が被る不利益を最小限に抑えられるようにサポートすることです。
刑事事件では捜査や裁判といった手続きがありますが、弁護士は各過程で適切に支援し、加害者にとって有利な判断を得るために行動してくれます。
脅迫罪とは?弁護士が解説する加害者側の視点
脅迫罪は他人に危害を加えるということですが、具体的にどのような言動が脅迫にあたるのでしょうか。
具体的に確認していきましょう。
脅迫罪の法的定義
脅迫とは、相手方(被害者)に対し、一般通常人であれば恐怖心を起こす(畏怖する)であろう程度の害悪を告知する(害を加えることを告げ知らせる)ことをいいます。
脅迫罪の要件と成立条件
脅迫罪は、刑法第222条で次のように定められています。
1項 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2項 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
上記を確認すると次の要件を満たした場合、脅迫罪が成立すると考えられます。
①害悪の告知対象が「生命、身体、自由、名誉、財産」であること
②危害を加えることを告知したこと
③害悪の告知を受けた者が個人であること
④脅迫したこと
また2項から本人だけでなく親族に対してであっても犯罪となります。
親族の範囲は、配偶者と6親等内の血族、3親等内の姻族です。
脅迫罪の成立条件として、害悪の告知を受けた者が個人であることが必要となるため、会社など人ではないものに対して脅迫罪は成立しません。
また、④の「脅迫したこと」の要件は、①と②が人を畏怖するに足りる程度であることを必要とするというものです。
簡単にいうと、脅迫された状況が、一般的に怖れを抱くものであったかどうかということになります。
例えば、幼児が大人に対して、「ぶん殴るぞ」「殺すぞ」といった言葉をいった場合、脅迫された大人がその幼児に対し強い恐怖感を覚えるとは考えにくいです。
そのためこのケースでは脅迫罪は成立しません。
脅迫罪が成立するには客観的にみて被害者が畏怖する状況であったのかが重要となります。
言葉による脅迫から非言語的脅迫まで:脅迫罪の種類とは?
脅迫罪は「殴るぞ」、「いう通りにしないと家族に危害を加えてやる」といったような言葉のイメージを持つ方が多いのではないかと思います。
具体的にどのような言葉をいうと脅迫罪に問われてしまうのでしょうか。
また、言葉以外の行為でも脅迫罪に問われる可能性はあるのでしょうか。
言葉による脅迫
言語によって相手を畏怖させる場合を、言語的脅迫といいます。
具体的には、殴る蹴るなどの暴行を加えると伝えること、あるいは殺すと伝えることなどが代表的な例となります。
また、「帰り道に気を付けてください」といった言葉であっても、被害者が「帰り道に襲われるかもしれない」と恐怖を感じる状況の場合には、脅迫にあたるとされることもあります。
非言語的脅迫
動作や挙動といった非言語的な方法で相手を畏怖させる場合を、非言語的脅迫といいます。
具体的には、殴りかかるような動作や刺すような動作をすること、包丁を送り付けるようなことなどが代表例となります。
また、火事が起きていないにもかかわらず、火事の見舞状を送ることが、放火を意味するものとして脅迫にあたるとされることもあります。
包丁などの凶器を見せて脅迫したような場合には、刑法ではなく、「暴力行為等処罰ニ関スル法律」という法律で処罰される可能性があります。
「暴力行為等処罰ニ関スル法律」の脅迫(「示凶器脅迫」といわれます)で処罰される場合、刑法の脅迫罪よりも重くなるケースがあるので注意が必要です。
脅迫罪で科される可能性のある刑罰
脅迫罪で逮捕、起訴されて有罪判決を受けた場合、どのような処罰が科されるのでしょうか。
具体的な処罰の内容を確認していきましょう。
刑罰の種類
刑法上の脅迫罪の法定刑は2年以下の懲役または30万円以下の罰金が規定されています。
凶器を使って脅迫するなど威力を用いた場合には、「暴力行為等処罰ニ関スル法律」の示凶器脅迫にあたり、3年以下の懲役、または30万円以下の罰金と罪が重くなります。
また、脅迫行為に常習性があるとみなされたときには更に処罰が重くなり3か月以上5年以下の懲役に処されるケースもあります。
脅迫罪の刑罰の範囲
法律で定められた2年以下の懲役または30万円以下の罰金という刑は法定刑であり、この範囲で裁判所が刑を言い渡すことになりますが、ここからさらに刑が加重あるいは減軽される場合があります。
刑罰が加重される場合とは、問題となっている事件の前にも脅迫罪で有罪判決を受け、刑務所に入っていた場合で、かつ、その刑期満了の日の翌日から5年以内に脅迫行為を行ったようなケースが挙げられます。
これを累犯と呼び、この場合には最長4年以下の懲役に付される可能性があります。
また、脅迫罪の他に傷害罪や暴行罪など複数罪を犯していたケースでは、併合罪となり更に刑罰が重くなります。
刑罰が減軽されるケースとして、法律上の減軽と酌量減軽の2つがあります。
法律上の減軽とは、法律によって刑を減軽することが認められているものであって、心神耗弱の場合などがあります。
酌量減軽とは、法律上の減軽を経てもなお下限の刑が重すぎる場合に、情状を踏まえてさらに裁判所が刑を減軽することをいいます。
脅迫罪についてはこの酌量減軽がなされることはありません。
脅迫罪で起訴された場合に裁判で使われる証拠とは?
脅迫罪の罪に問われ、裁判になった場合、裁判官はさまざまな証拠をもとに、被告人が罪を犯したのか、また犯した場合にはどれくらいの刑罰が妥当なのかを判断します。
脅迫罪の場合、どのようなものが証拠になり得るのか考えていきたいと思います。
証拠の種類
刑事裁判で裁判官が確認する証拠は、人証、物証、書証の3つに分けられます。
人証とは、裁判の法廷で人が話した内容を証拠にすることをいいます。
脅迫罪の場合、当事者である被告人や被害者の供述だけでは水掛け論になってしまいかねません。
そのため被告人の脅迫行為を目撃した者の供述がこの人証となるケースがあります。
物証とは、物自体が証拠となるというものになります。
脅迫罪で物証になりえるものとして、被告人が被害者を脅迫している行為がおさめられた動画や録音されているテープ、脅迫文書などが考えられます。
最後に書証とは、裁判で主張されている事実を証明する文章のことをいいます。
脅迫罪の場合、被害者の方や目撃者の供述が録取された書面や、SNSの投稿やチャットで脅迫がなされた場合にその画面を撮影した捜査報告書などが書証にあたります。
書面の場合には、刑事訴訟法の伝聞法則によって証拠とならない場合があるため、注意が必要となります。
証拠の収集方法
刑事事件で被告人側が証拠を提出する場合、罪を認めているか、否認しているかによって証拠は異なります。
罪を認めている場合には、刑罰を軽くするために、被害者から宥恕(ゆうじょ)を得ているような証拠や、犯行当時心神耗弱状態であったような診断書などが考えられます。
証拠の収集方法としては、被害者との示談を成立させ示談書を得ることがあります。
心神耗弱の場合には犯行当時に被告人が心神耗弱状態であったと推認できるような通院履歴やその当時の被告人の様子に関する証言などさまざまな観点から証拠を収集する必要があります。
被告人が脅迫罪を否認している場合には、検察の主張は罪を犯したことを証明するには不十分であるという証拠を収集する必要があります。
罪を犯していないことを立証しなくてもいいのかと疑問に思った方もいるかもしれません。
刑事事件の場合、「疑わしきは被告の利益に」という考えがあるので、裁判官に「検察の主張は有罪にするには不十分だ」という心証を持ってもらえれば無罪になります。
被告人が無罪であることまで立証する必要はありません。
否認している場合の証拠収集として、口頭で脅迫したと疑われている場合には、目撃者の証言を集めます。
また脅迫したとされた近辺の防犯カメラなどで録画をしている場合には、それらのテープなどを収集することもあります。
手紙やSNSの投稿などで脅迫を疑われている場合には、手紙の内容や投稿内容が、客観的にみて脅迫というには十分でないことを被告人の当時の状況を交え主張していきます。
脅迫罪訴訟の流れと和解の可能性について
脅迫罪をはじめ、刑事事件は検察が起訴することによって裁判になります。
訴訟の流れや被害者の方との和解の可能性についてみていきます。
起訴から判決までの流れ
検察から起訴された場合、大体1か月半から2か月ほど後に第1回目の公判期日が設定されます。
公判期日では、被告人が誰であるかを確認するなどの冒頭手続、証人尋問や被告人の本人尋問などの証拠調手続、論告・求刑など弁論手続の順に手続きが進められていきます。
弁論手続までが終わり、結審すると1か月程度で判決が言い渡されます。
一般的な刑事事件のイメージとして複数回、公判をしたうえで判決が言い渡されると考えている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし被告人の犯した罪が比較的軽微であり、かつ罪を認めている場合には第1回目の公判で結審し、第2回目の期日で判決が言い渡されるということが多く、この場合には3か月ほどで手続きが終了することになります。
罪を否認している場合裁判が長期化することもある
被告人が罪を否認している場合、刑事裁判が長期化することがあります。
無実を主張する場合などには、証人尋問がなされるなどして複数回の期日が設定されるため、判決が言い渡されるまでに数か月あるいは数年単位になることもあるのです。
刑事訴訟には和解の可能性がない
刑事訴訟の場合、起訴する者は被害者ではなく検察です。
刑事訴訟には、和解という制度は用意されていません。
刑事訴訟に進んでしまうと、被害者と和解するメリットがないと思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、被害者との和解、つまり示談を成立させることは、裁判官の量刑判断に関わってきます。
そのため被害者に対し、心から謝罪し、被害弁償をすることは、刑事訴訟に進んだ場合であっても非常に重要なのです。
なお、検察が起訴する前に、被害者と示談し、和解が成立した場合には検察が被害者の被害回復がされたとみなし、不起訴にすることもあります。
そのため、被害者との示談は速やかに動くことが大切なのです。
刑事事件での弁護士の役割とは?
刑事事件では、加害者に対し黙秘権、接見交通権、弁護人選任権が保障されています。
黙秘権とは、不利な供述をさせられないように、黙秘して話さないことも選択できる権利を保障するというものです。
接見交通権は、逮捕や勾留などで身柄拘束を受けている被疑者や被告人(起訴された後の被疑者の呼び方)が、弁護人や弁護人となろうとする者との面会する権利、そして書類や物の受け渡しをする権利をいいます。
弁護人選任権は、国家権力との闘いとなる刑事事件で、弁護士という法律の専門家に弁護を依頼し、対等な立場で闘えるようにする権利となります。
加害者の権利のうち、接見交通権と弁護人選任権では、弁護士が大きな役割を持ちます。
逮捕されてしまった被疑者は、逮捕の期間中は家族であっても面会することができませんが、その間でも自由に面会することができるのが弁護士となります。
そのため、法律相談のみならず、家族との連絡役を担うこともできます。
また、刑事事件の加害者側の証拠収集については、一般人である家族では限界があり、弁護士会照会を利用できること、そして法廷での弁護活動が可能であることが弁護士の特徴であり、弁護士にしかできない役割となります。
加えて、示談交渉は加害者本人やその家族であっても行うことができますが、被害者の方の中には、加害者らと関わりたくないという人もおり、代理人としての弁護士を介さなければ交渉に応じてもらえないということもあります。
このように刑事事件では弁護士でなければできない役割が多くあり、弁護活動を依頼することで有利な処分を得やすくなります。
加害者側弁護士の選定
弁護士が重要といわれていても、どうやって弁護士を選べばいいのかわからないという方も多いでしょう。
ここでは、加害者側の弁護士を選ぶ際のポイントについてみていきます。
弁護士を選ぶ際のポイント
弁護士を選ぶ際のポイントとして、弁護士との相性、経験、費用が挙げられます。
弁護士は法律の専門家というところでは共通しますが、それぞれに得意不得意があります。
そのため、解決実績が豊富であること、刑事事件を強みとしているといった点を重視する必要があります。
また、費用についても、着手金・報酬金型やタイムチャージ型があり、状況によって金額に大きな差が生じる場合もあるため、この点についても注意しておく必要があります。
弁護士とのコミュニケーション
もっとも重要なポイントが弁護士との相性となります。
弁護士に弁護活動を依頼した場合には、加害者本人らと多くのコミュニケーションをとる必要があります。
このコミュニケーションがうまくいかない、つまり相性が悪い弁護士に弁護を依頼してしまうと、お互いを信頼することができず、良い結果が期待できなくなってしまいかねません。
そのため、無料相談などを利用して相性を確認し、信頼できる弁護士であるかを確認しなければなりません。
まとめ
刑事事件では、起訴されてしまうと無罪判決を勝ち取ることは困難であり、その前の段階で示談を成立させるなどして、不起訴処分を得ることがかかせません。
脅迫罪の疑いをかけられてしまった場合には、刑事事件に強く豊富な解決実績を有する弁護士に相談することが大切であるといえます。
この記事の監修者
弁護士法人エースパートナー法律事務所市川 知明弁護士
■神奈川県弁護士会
刑事事件は、いつ弁護士に依頼するかによって、対応の幅が変わったり、不起訴処分や減軽の可能性が高くなったりします。
弁護士法人エースパートナー法律事務所は、逮捕段階・勾留段階、逮捕前のご相談も受け付けております。
「依頼者の方との絆”を大切に、迅速・適切・こまめなサポート」をモットーに日々尽力しておりますので、刑事事件でお困りの方はご相談ください。
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