【弁護士監修】傷害罪は程度によって受ける刑罰が異なる
公開日2022/04/07
更新日2022/08/03
カテゴリ暴行罪・傷害罪
傷害罪には懲役刑と罰金刑が設けられています。
どちらの刑罰が科されるかは、傷害の程度によって異なります。
今回は、傷害罪の成立要件や傷害の範囲と、刑罰の種類・刑の重さが決まるポイントについて解説していきます。
【この記事のポイント】
- 傷害罪が成立する条件がわかる
- 傷害罪の刑罰が決まるポイントを知れる
傷害罪は故意に人を傷つけることで成立する罪
傷害罪のイメージとして、他人を傷つけることで成立するものと考える方は少なくないと思います。
実際に傷害罪を定めている刑法204条でも、次のように定められています。
刑法204条(傷害)
「人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」
しかし、人に暴力をふるったことで、即座に傷害罪が成立するわけではありません。
傷害罪が成立するには、次のポイントをすべて満たしている必要があります。
傷害罪が成立するポイント①他人を傷つける行為をした
傷害罪が成立するには、何らかの形で他人を傷つける行為をしたことが前提となります。
例えば、「人を拳で殴る」「平手打ちをする」「足で蹴る」「押し倒す」「ひっかく」等が考えられます。
また、ナイフやバット、鉄パイプといった道具を使って他人を傷つけることも、傷害罪が成立する要素になり得ます。
傷害罪が成立するポイント②他人を傷つけた結果、実際に傷害を負った事実
傷害罪の成立には、加害者が他人を傷つける行為をした結果、相手が実際に負傷した事実が必要です。
具体的にいうと、「出血した」「打撲した」「骨折した」「内出血した」等が考えられます。
傷害の有無や程度は、一般的に医師の診断書を根拠とします。
なお、殴る蹴る等の他人を傷つける行為をし、相手が負傷しなかった場合、傷害罪は成立しませんが、暴行罪が適用される可能性があるので注意しましょう。
傷害罪が成立するポイント③傷害を負わせる行為と傷害を負ったことの因果関係
傷害罪が成立するポイントとして「傷害を負わせる行為」と「傷害を負った事実」との間に因果関係がなければなりません。
つまり、「傷害を負わせる行為」が原因で、「傷害を負う」結果が発生したという関係が必要になります。
したがって、「傷害を負わせる行為」を行ったとしても、別の原因で「傷害を負う」結果が発生した場合は傷害罪が成立しません。
傷害罪が成立するポイント④故意に他人に傷害を負わせたか
傷害罪が成立するためには、①から③のポイントに加え、加害者が「故意に」他人に傷害を負わせる必要があります。
「故意」とは、簡単に言えば、傷つけたいという意思を持って、その行為をするということです。
他人を傷つけようと考えて、あるいは傷ついても仕方がないと考えて、傷害を負わせる行為をすると、その者には傷害罪の故意が認められます。
状況によって、他人を故意に傷つけようという意思を持っていなくても、傷害罪が成立することもあります。
これは、傷害罪が暴行罪の「結果的加重犯」としての役割があるためです。
「結果的加重犯」とは、加害者が意図していたものより重い結果が生じた場合に、その重い結果についても処罰する犯罪のことをいいます。
意図した行為の延長線上に重い結果が生じるのであれば、その重い結果が発生した責任も負わなければなりません。
つまり、「ケガを負わせよう」「骨折させよう」といった意思が無くとも、「殴ってやろう」「蹴ってやろう」等の意思を持って暴行した結果、相手がケガをした場合は傷害罪が成立する可能性があります。
このような違いは、刑罰の重さの判断で違いが生じます。
意図的にケガをさせた場合と、意図せずケガをさせてしまった場合とでは、前者の方がより悪質といえ、後者よりも重い刑罰が下る可能性が高くなります。
なお、「故意」ではなく、不注意による過失で他人を傷つけてしまった場合は、傷害罪ではなく、過失傷害罪が成立します。
傷害罪は身体的な怪我だけではなく病気にも適用される可能性がある
傷害罪は、相手の身体に直接ケガを負わせることをイメージしがちです。
しかし、実際は、身体的なケガだけでなく、相手の健康状態を悪化させるような行為でも成立する可能性があります。
具体的にどのようなケースがあるのか考えていきましょう。
他人に精神的ダメージを負わせ、精神疾患となった
他人に精神的ダメージを負わせるような行為の結果、相手方が精神疾患になった場合、傷害罪が適用される可能性があります。
具体例をいくつかあげていきます。
上記のような行為をした場合、身体的な傷がなくとも、傷害罪が成立するケースもありえます。
性病等の病気を移した
自分が性病等の病気にかかっていることを知りながら、相手に病気を移そうとしたり、移っても仕方がないと考えて、実際に相手に病気を移したりした場合、その者には傷害罪が成立します。
実際に「性病であることを秘して性交し病毒を感染させた」事例につき、傷害罪の成立を認めている判例もあります。
最近では新型コロナウイルスが猛威を振るっています。
もし、自分がウイルスに感染していることを知っておきながら、他人にウイルスを移そうと考えて、ウイルスをまき散らす行為をした結果、実際に他人がウイルスに感染すれば、(「ウイルスをまき散らす行為」と「ウイルスに感染した事実」間の因果関係を立証できるかどうかは別として)傷害罪が成立します。
傷害罪の刑罰が決まるポイント
傷害罪で有罪となった場合、「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」に処されます。
「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」という範囲から、具体的にどのような刑罰が科されるかは事案ごとに異なります。
悪質な事件と判断されればその分刑罰が重くなりますし、軽微な事件と判断されればそれに応じて、刑罰は軽くなります。
傷害罪における量刑(刑罰の重さ)を決める判断のポイントは、次の7点です。
このようにさまざまな事情を総合的に考慮して判断していきます。
ポイント①傷害の程度
傷害結果の大きさ・程度は量刑判断において極めて重要な要素です。
被害の程度が大きいほど被害の回復が困難になるため、重い処分が下されることになります。
ポイント②傷害行為の様子や悪質性
傷害行為の態様が悪い場合や悪質性が高い場合は、処罰の必要性が大きいと判断され、重い処分が下されやすくなります。
傷害行為といっても、単に平手で身体をたたく行為もあれば、ナイフで切り裂く行為もあり、どのような傷害行為が行われたかは量刑判断の際に重要な要素となります。
悪質性は、残忍性や執拗性、反復性、危険性等から総合的に判断されます。
ポイント③被害者の人数が多いか
被害者の人数は、傷害結果の大きさや程度と同様、量刑判断の重要な要素となります。
被害者の人数が多いほど、傷害行為の悪質性が認められ、重い処分が下されやすくなります。
ポイント④傷害行為の動機や計画性があったかどうか
傷害罪の量刑判断には、傷害行為を行うに至った動機や、計画性も考慮されます。
単に人を殴る行為でも、被害者に挑発され激情に駆られて殴るのと、通り魔的に通行人をいきなり殴るのとでは、後者の方がより重い量刑となるでしょう。
また、反社会的な動機に基づく場合等でも重い処分が下されやすくなります。
傷害行為を行う計画を立てていた場合は、計画を行うほどの時間があった以上、考え直して傷害行為を行わないという選択肢もあったと考えられます。
冷静な判断ができる時間があったのにもかかわらず、あえて傷害行為を行うことを選んだのですから、傷害行為の反社会性が認められることになります。
ポイント⑤示談しているかどうか
被害の回復や弁償という面で、被害者との示談が成立しているかどうかは、量刑判断に関わります。
十分な示談金が支払われ、被害者に処罰を希望する意思がないと確認できる場合は、加害者に重い刑罰を科す必要性が低いとみなされる可能性が高くなります。
ポイント⑥同じ罪で前科・前歴があるかどうか
過去にも同様の傷害事件を起こしている場合は、過去の反省を生かしておらず、軽い処分に終われば今後も同じような事件を繰り返すおそれがあるといえます。
そのため、同じ罪の前科・前歴がある場合は、重い量刑が下されやすくなります。
ポイント⑦反省がみえ更生の余地があるかどうか
加害者が反省しており、更生の余地があるかどうかは量刑判断に関わってきます。
加害者に反省の色がみえず、今後も同じような事件を繰り返すおそれがある場合は、軽い処分で済ませるわけにはいきません。
刑罰を通じて自己の行いを反省し、二度と同じ過ちを犯させないことも裁判所の役割です。
全く反省が見られず、更生の余地が乏しいと判断された場合は、重い刑罰が科される可能性が高まります。
傷害罪を早期に解決したい場合は弁護士に相談するべき
傷害事件を起こしてしまった場合は、早急に弁護士に相談するべきです。
日本の刑事裁判は有罪率が99%以上で、刑事裁判となったらほぼ間違いなく有罪となります。
有罪となれば、刑罰が科されることはもちろんのこと、前科が付くことになり、生活に支障をきたすおそれがあります。
そのため、刑事裁判となる前段階で釈放される不起訴処分を勝ち取ることが非常に重要になります。
傷害罪の起訴率は約3割といわれており、示談等の適切な弁護活動を行うことで不起訴処分を勝ち取ることが期待できます。
刑事弁護に精通した弁護士に傷害事件の弁護を早期に依頼することで、適切なタイミングで適切な弁護活動を行ってもらえ、事件を早期に解決することができます。
まとめ
今回は傷害罪の成立要件や、刑罰の種類や刑罰の重さを決めるポイントについて解説しました。
刑事事件は早い段階から対応することで、逮捕等に伴う不利益を最小限にとどめることができます。
お困りの際は、刑事事件に精通した弁護士に相談しましょう。
この記事の監修者
佐々木法律事務所佐々木 幸駿弁護士
【所属】札幌弁護士会
刑事事件の加害者となった場合、早期釈放や不起訴処分、刑の減軽を得るには、被害者の方との示談交渉が大切です。
示談交渉は被害者の方の心情を考慮しながら進めなければならず、自力で行うことは困難といって良いでしょう。
佐々木法律事務所は加害者とのコミュニケーションを重要にしており、札幌市を中心に広く弁護活動を行っています。
お困りの際は、当事務所にご連絡ください。
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