人を殴ってしまった!傷害罪で慰謝料等を支払わないとどうなる?慰謝料等を支払わないままでいると生じるリスクとは?
公開日2022/03/28
更新日2022/08/03
カテゴリ暴行罪・傷害罪
傷害事件を起こしてしまった場合,被害者に対して慰謝料等の損害賠償金を支払う責任を負うことになります。
それにもかかわらず,もしも被害者から慰謝料等の請求をされ,それを拒否した場合,どのようなリスクが生じるのでしょうか。
今回は,傷害事件で慰謝料等を支払わないことで生じるリスク,慰謝料等を支払う際の注意点について解説していきます。
【この記事のポイント】
- 傷害罪で慰謝料等を支払わないことで生じるリスクがわかる
- 傷害罪で慰謝料等の支払うときの注意点がわかる
人を殴ってしまった!被害者から請求された慰謝料等を支払わないことで生じるリスク
人を殴って怪我を負わせてしまった場合,被害者から慰謝料等の損害賠償金を請求されることがあります
。被害者からの慰謝料等の請求に応じなかった場合,どのような事態に発展するリスクが生じるでしょうか。
傷害罪で逮捕,起訴される可能性がある(刑事事件としてのリスク)
人を殴って怪我を負わせたにもかかわらず,被害者からの慰謝料等の請求に応じないままでいると,当然,被害者としては警察に被害届を提出することになるでしょう。
被害届が提出されると,警察は傷害事件として立件して犯罪捜査を開始します。場合によっては逮捕されることもあります。
逮捕された場合,まずは最大72時間身柄を拘束されます。その後,勾留が必要だと判断された場合には10日間(勾留が延長された場合は最大で合計20日間)は身柄拘束が継続する可能性があります。
更に検察官が「起訴する必要がある」と判断した場合は,起訴(公判請求)されて刑事裁判を受けることになります。この場合,原則として刑事裁判が終了するまで身体拘束は継続されます。
刑事裁判で傷害罪が認定されて有罪が確定した場合,「15年以下の懲役」又は「50万円以下の罰金」が科せられます。有罪判決を受けた経歴は「前科」として残ります。
被害者からの慰謝料等の請求に応じないまま放置して,刑事事件として立件されてしまった結果,逮捕や勾留により長期の身柄拘束を受ける事態や有罪判決により刑事罰が科されて前科が付くという事態に発展することは,大きなリスクといえます。
民事裁判を提起される可能性がある(民事事件としてのリスク)
被害者からの慰謝料等の請求に応じなかった場合,被害者としては裁判所に民事裁判を提起することが考えられます。
人に怪我を負わせると,刑事上の責任(犯罪に対する刑罰)のほかに,民事上の責任(不法行為による損害賠償責任)を負うことになります。
損害賠償の内容としては,被害者に与えた精神的苦痛に対する慰謝料のほかにも,怪我の治療費や入通院費,怪我によって働けなくなった期間の休業損害等があります。
この民事上の損害賠償責任については,もちろん当事者同士の話し合い(示談交渉)によって解決されるケースもありますが,当事者間の交渉で合意に至らなければ,被害者としては,当然,裁判所に民事裁判を提起する方法を選択することもできます。
したがって,被害者からの慰謝料等の請求を軽い気持ちで無視したり,誠実な対応をしなかったりすると,当事者間の交渉だけでは収まらず,被害者から民事裁判を提起されてしまう可能性があるのです。
民事裁判に発展した場合,一般に,手続には長期間を要することになり,時間的にも金銭的にも大きな負担がかかります。
加えて,最終的に判決で支払命令を受ける損害賠償金には被害者側の弁護士費用の一部が含められることになるケースもあり,金銭的な負担はさらに大きくなる場合があります。
なお,刑事裁判においても,有罪判決の言い渡し後,「損害賠償命令」が行われることがあります。
損害賠償命令とは,刑事裁判を担当した裁判所が有罪判決を言い渡した後に,引き続き被害者からの損害賠償請求についての審理を行い,加害者に損害の賠償を命じることができる制度です。
慰謝料等の請求の拒否することには大きなリスクを伴うので放置はNG
被害者からの慰謝料等の請求を拒否したり,無視してしまったりすると,大きなリスクを伴います。特に怪我の程度が深刻な場合や怪我を負わせた行為が悪質なケースでは,刑事責任・民事責任の双方を問われるリスクは非常に高いといえます。
一方で,被害者と誠実に示談交渉を行い,慰謝料等を支払って,被害者から許しを得たり,被害回復の措置を講じたりすることができれば,これらのリスクを少しでも低くすることにつながります。その意味で,被害者との示談は 非常に重要となります。
傷害事件の慰謝料に相場はあるのか
傷害事件を起こし,被害者と慰謝料等の交渉を行う場合,慰謝料の金額に相場感はあるのでしょうか。また,慰謝料の金額を決めるうえで,どのような点が重要視されるのでしょうか。
慰謝料は被害状況によって大きく左右される
人を怪我させた場合の慰謝料の金額は,被害状況等によって大きく左右されます。そもそも慰謝料とは被害者の受けた精神的苦痛に対する賠償のことですから,簡単にお金に換算できるようなものではなく,その意味で「相場」は存在しません。
具体的なケースごとに,事件の性質,具体的には,行為の悪質性(集団,長時間,執拗,凶器使用等)や被害の程度(入通院期間や後遺障害の有無等),被害者の抱いている被害感情や加害者への処罰感情の程度等,さまざまな事情を考慮したうえで,そのケースにおける慰謝料の「相当額」が決まることになります。
もっとも,示談交渉は,あくまで当事者間の話し合いですから,当事者同士が納得するのであれば合意した金額での示談成立となります。それ故,「相当額」の範囲で合意ができることもあれば,被害者によっては「相当額」から大きくかけ離れた金額を提示される,ということもあり得ます。
軽微な傷害の場合の慰謝料は50万円以下の場合が多い
軽微な傷害事件であれば,慰謝料は50万円以下である場合が多いといわれています。「軽微な傷害事件」とはすなわち,被害者の怪我の程度(被害の程度)が小さいケースのことです。
傷害事件の中でも,生じた怪我が全治1週間程度のものであれば「軽微な傷害事件」として扱われ,慰謝料は比較的少額にとどまることがあります。
傷害事件では,「被害の程度」が慰謝料や示談金を決める重要なポイントの一つといえるでしょう。
もっとも,被害者の負った怪我自体は小さなものでも,状況によっては大きな精神的苦痛を伴う可能性もあります。被害者の受けた精神的ショックが大きい等の事情がある場合,怪我自体が軽微だとしても慰謝料が50万円を超えるケースもありますので,あくまでも目安としてお考え下さい。
慰謝料等について被害者と交渉は可能なのか?
被害者から慰謝料等を請求された場合,金額や支払時期等の条件について被害者と交渉することは可能です。当事者間で慰謝料等の被害弁償についての話し合うことを示談交渉といいます。
示談が成立するには,あくまで加害者・被害者双方の合意が必要です。したがって,被害者から提示された“言い値”で強制的に金額が決まるというわけではありません。
逆に,加害者から慰謝料等の支払いを希望しても,その金額に被害者の了承を得られなければ示談は成立しません。
被害者との交渉の際は,以下の点に注意しましょう。
- 提示された慰謝料等があまりにも高額だと感じた場合は支払いを焦らないこと
- 慰謝料等の支払方法についても被害者と交渉の余地はあること
- 被害者の感情を害するような交渉はしないこと
提示された慰謝料等があまりにも高額だと感じた場合は支払いを焦らないこと
示談では,加害者が慰謝料等を含む示談金を支払うことを条件に,被害者から許しを得る(これを「宥恕(ゆうじょ)」といいます。)というのが一般的です。
加害者には,被害者が納得するような示談金を提示することが求められます。加害者から提示した金額が少ない場合,増額を希望して被害者の方から金額を提示してくるケースもあります。
ただし,被害者から提示された慰謝料等があまりにも高額だと感じた場合は,支払いを焦らないように注意しましょう。
確かに,示談が成立しないと,加害者に大きなリスクが生じ得るため,加害者としては何としても示談を成立させたい,という心情になります。
しかし,万が一そのような心情につけ込まれてしまい,結果として「相当額」からかけ離れた法外な金額の支払いに応じざるを得なかったという事態になると,それは“妥当な解決”とはいえません。
また,非常に希なケースではありますが,逆に被害者の方が恐喝まがいの行為で金銭の支払いを要求してくるという事態も全くないとはいえないため,示談交渉にあたっては十分に注意が必要です。
慰謝料等の支払方法についても被害者と交渉の余地はあること
慰謝料の支払方法についても,被害者と交渉する余地があります。「慰謝料の支払方法」とは,具体的には,慰謝料を一括で支払うか,分割して支払うかです。
被害者としては,一括払いで支払ってもらう方がよいといえます。
分割払いでは,全ての支払いが完了するまでに滞納が生じる可能性がありますし,支払期間中に加害者が無資力となって支払えなくなるリスクもあります。
支払いが全て完了するまで加害者との関係が続いてしまうという点も被害者にとっては大きなデメリットといるでしょう。
そのため,示談の際に被害者からは一括払いでの支払いを要求されるケースが一般的です。
しかし,加害者に現在まとまったお金がないなど,そもそも一括払いが難しいという場合や被害者の希望する一括支払額よりも低い額しかどうしても用意できないという場合があり得ます。
そのような場合,被害者としても,そのまま交渉決裂とするのではなく,妥協して一括支払額の減額に応じるか,あるいは分割払いを認めるか,という点を検討することになるでしょう。
このように,金額以外の点でも被害者と交渉する余地はあるといえます。
被害者の感情を害するような交渉はしないこと
慰謝料等の示談交渉を行うにあたり,特に気を付けなければならないのは,被害者の感情を害するような交渉は絶対に避けることです。
確かに被害者が提示した条件が加害者にとって厳しいものである場合,被害者に妥協してもらいたいとの思いで交渉する場面があります。
このときに被害者の感情を逆撫でするような言動をとったり,強引に妥協案を引き出そうとする姿勢を取り続けたりすると,被害者の感情を害し,交渉が決裂してしまう可能性があります。
交渉の相手方はあくまで事件で怪我を負わされた“被害者”です。もちろん被害者だからといってその要求を全て受け入れなければならないわけではありませんが,そもそも示談は被害者から許しを得るために行っているという点も忘れないようにしましょう。
傷害罪の慰謝料の請求を受けたら弁護士に相談しよう
傷害事件を起こしてしまい,被害者から慰謝料等の請求を受けた場合,なるべく早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
なるべく早い段階で示談を成立させることで,警察に被害申告がなされる前に解決できたり,被害者が被害届等の取り下げをしてくれたり,不起訴処分や刑罰の減軽につながる可能性が高くなります。
傷害罪の起訴率は約3割(※) といわれており,示談等の適切な弁護活動を行うことで加害者に生じる不利益を最小限にとどめることが可能です。
もっとも,加害者本人が直接被害者と交渉しようとすると,被害者に警戒され,うまく示談がまとまらないケースは多々あります。
また,そもそも加害者が被害者の連絡先等を知らない場合,加害者本人が警察等の捜査機関に問い合わせても,捜査機関としてはなるべく当事者同士の接触を避けようするため,加害者本人からでは被害者の連絡先等の開示に応じてもらえないことが多いです。
これに対して,弁護士という事件の当事者以外の者が交渉にあたることで,話し合いをスムーズに進めることができますし,捜査機関に対しても弁護士から問い合わせをすれば被害者の連絡先等の開示にスムーズに応じてもらえる可能性が高いといえます。
また,刑事事件に精通した弁護士であれば,事件の内容に応じて適切な慰謝料や示談金を設定・提示することができ,両当事者の納得を得られる解決が図りやすいといえます。
示談を迅速かつ適切に行うにはさまざまな法律知識が求められます。
示談の際にどのようなことを決めておく必要があるかについて分からずに不完全な内容で示談してしまうと,後々に被害者と間で大きなトラブルに発展するリスクもあります。
法律のプロである弁護士に交渉を任せることで,このようなリスクを回避することができます。
※検察統計調査 検察統計の「被疑事件の罪名別起訴人員,不起訴人員及び起訴率の累年比較」より引用
まとめ
今回は,傷害事件で慰謝料等を支払わないことで生じるリスク,慰謝料等を支払う場合の注意点について解説しました。
傷害事件では,被害者との示談成立が今後の処遇に大きな意味を持ちます。お悩みの際は,刑事事件に精通した護士に相談しましょう。
この記事の監修者
豊田・大杉総合法律事務所反町 義昭弁護士
【所属】千葉県弁護士会
私はもともと教育に関して興味を持っており、学生時代には実際に教育免許を取得し、教育実習の経験もあります。実際の教育現場を経験し、実感したのは学校等の教育機関では対応しきれない非行などのトラブルがあること、またさまざまな問題を抱える方たちに対して支援を行う重要性です。
私は保護者や子どもの抱えるトラブルを法律面で支援したい思い、弁護士になることを決意しました。
現在、刑事事件や少年事件を中心に弁護活動を行っております。弁護士として、ご依頼者の方の本当の意味での利益を追求し、ご依頼者の方が信頼できるパートナーとなれるよう全力でサポートさせていただきます。お困りの方はご相談ください。
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