ひき逃げ事件の刑罰とは?加害者側弁護士の役割と選び方
公開日2023/07/04
カテゴリひき逃げ・当て逃げ
交通事故の中でも人身事故により被害者の方を死傷させてしまったにもかかわらず、救護活動等を行わずに走り去ってしまうことをひき逃げ事件といいます。
ひき逃げでは、免許取消しなどの行政処分を受けるだけでなく、裁判を経て刑罰を科される可能性もあります。
刑事事件化されてしまった場合には、大きな不利益を受けかねず、適切な対応が必要であるため弁護士の協力が欠かせません。
ここからはひき逃げとはというところから、その後科されうる刑罰、加害者としてできることについて解説していきます。
ひき逃げってどういうこと?
まずはどういった場合に「ひき逃げ」をしてしまったことになるのかについてみていきます。
ひき逃げの意味と要件について解説
道路交通法72条1項前段は交通事故の場合の措置として、交通事故があった場合に運転を停止し、負傷者の救護と道路の危険を防止する措置をとることを要求しています。
救護義務、危険防止措置義務と呼び、これらの義務(特に救護義務)に違反した場合を「ひき逃げ」といいます。
救護義務は必ずしも自分で救護活動を行わなければならないわけではなく、救急車を呼ぶなどして状況に応じて適切な行動をとることが必要です。
危険防止措置義務は発煙筒を焚く、車を誘導することなどが必要です。
ここで接触していないという場合には救護義務が課されないようにも思えます。
しかし、接触がなかったとしても、すぐ近くを通行したために相手が驚いて転んでしまった場合などには、この救護義務が課されることがあるため注意しなければなりません。
また相手の方が大丈夫などと言っているとしても、それにより救護義務が免除されるわけではないため、この点も注意が必要となります。
道路交通法72条1項は後段で報告義務として警察官に事故があったことや事故の内容について報告することも義務付けているため、交通事故を起こしてしまった場合には、救護義務を果たすとともに警察への連絡も欠かせません。
刑罰ってどんなことがあるの?
ひき逃げは道路交通法違反ですが、被害者の方が死傷している場合には自動車運転処罰法違反の犯罪になることもあります。
ひき逃げ事件における刑罰の種類と範囲
まずは上記の救護義務や危険防止措置義務違反の刑罰は道路交通法に定められており、10年以下の懲役または100万円以下の罰金、また報告義務違反については3か月以下の懲役または50万円以下の罰金とされています。
道路交通法違反以外で成立することが考えられる犯罪としては主に自動車運転処罰法の過失運転致死傷罪と危険運転致死傷罪があります。
過失運転致死傷罪は不注意で事故を起こし、被害者の方を死傷させてしまった場合に成立するもので、刑罰は7年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金とされています。
危険運転致死傷罪は飲酒などによって正常な運転ができない状態で自動車を走行させるなど無謀な運転で事故を起こし、被害者の方を死傷させてしまった場合に成立するもので、死亡させてしまった場合の刑罰は1年以上の有期懲役、負傷させてしまった場合の刑罰は15年以下の懲役とされています。
有期懲役は最長20年となります。
裁判の流れと加害者側弁護士の役割
ひき逃げは道路交通法違反の中でも重い部類に属するため、原則として通常の刑事裁判を受けることになり、自動車運転処罰法違反の場合も同様となります。
裁判に至る前の段階では、逮捕されるなどして警察や検察からの取り調べを受けることとなり、その結果として検察官が起訴すべきと判断した場合に刑事裁判に至ることになっています。
裁判の流れとしては、被告人(加害者のこと、俗にいう容疑者が起訴された後の呼び方)が誰であるのかを確認した上で、検察官側と被告人側の双方が立証を繰り返し、証人などの証拠調べを行い、最終的に裁判官が無罪であるか有罪であるかの判決を下すことになります。
弁護士の役割としては、主に証拠収集などの弁護活動が挙げられます。
刑事裁判に至ってしまった場合には、裁判の中で被告人にとって有利な事実を証明し、時には検察官の立証に対して反証をしていくことになります。
こうした立証活動においては、証拠が重要となり、被告人本人の供述以外にも目撃者の供述を集める、あるいは防犯カメラの映像などの客観的な証拠を収集しなければなりません。
これらの証拠は、一般の方では収集能力に限界があり、弁護士会を通じた照会など、弁護士であれば、より多くの証拠を収集することができます。
こうした弁護活動に加えて、ひき逃げの場合には一度逃げてしまっていることから、逃亡のおそれあるとして逮捕されてしまうこともあります。
逮捕による身柄拘束中は、弁護士以外の面会が制限され、警察や検察の取り調べに応じなければならないという精神的に負担を感じざるを得ない状況になります。
弁護士であれば、家族との連絡役として精神的なサポートを行うこともできます。
どうすれば刑罰を軽くできるの?
刑罰を軽くするためにできることとしては、自首をすること、被害者の方との示談を成立させること、あるいは被告人に有利な事実を示すことが挙げられます。
このうち、示談については、通常は保険会社が被害者の方と示談交渉をするためここでは触れないこととします。
自首の重要性
刑罰を軽くする方法としてまず考えられることが自首をすることです。
自首とは、罪を犯した者が誰であるか発覚する前に自ら捜査機関に犯人であると名乗り出ることをいいます。
自首が成立する場合には、刑法上は刑を減軽できるとされており、刑が軽くなることが期待できます。
証拠の集め方や証人尋問の重要性
証拠の集め方としては、実際に現場に行き、事故現場を確認する、また目撃者を探し出し、状況について確認する、さらには事故現場付近に防犯カメラがあれば、その管理者と交渉し映像を確認するということが考えられます。
それ以外の方法としては、関係している機関や会社から資料を収集するということもあります。
弁護士会照会と呼ばれる法律で認められた制度によって開示請求することで、照会を受けた企業や官公庁は原則として回答しなければならず、証拠収集の有力な手段の一つとなっています。
具体的には、交通事故の当事者が加入していた保険の保険会社は、交通事故証明書や事故現場の写真などを保有していることが多いため、これらの証拠を収集します。
また、警察は、事故の状況について検証した実況見分調書、加害者本人や被害者の方、目撃者の供述が記録された供述調書などを作成します。
裁判になると、弁護人はその内容を確認することができるようになり、裁判においてどのように反論するかの方針を決定することができるようになります。
収集された証拠については、裁判の証拠調べ手続において内容が判断されることになります。
日本の裁判所は裁判所が自ら証拠調べを行った上で事実認定を行うという直接主義、そして口頭での証拠調べを行うことを原則とする口頭主義を採用しています。
そのため、実際の法廷において、裁判官の面前でなされる証人尋問、そしてそこで得られた証言は裁判官が心証形成において重要となります。
責任を減らす方法ってあるの?
交通事故の加害者として責任を減らすことできるのかについてみていきます。
加害者が責任を減らすためにできること
加害者が責任を減らす方法としては、被害者の方や捜査機関の捜査に真摯に向き合うこととなります。
ひき逃げをしてしまった場合、すでに救護義務違反などの罪に問われる状況であり、その罪に応じた責任を負うことになります。
この責任を少しでも減らすためには、被害者の方のお見舞いに行き、真摯に謝罪するなど、被害者の方に誠実に対応することが重要となります。
加えて、捜査機関が行う実況見分や取り調べに対しても誠実に対応することも、加害者に課された責任を減らすことにつながります。
弁護士の選び方と連絡方法
ここでは、ひき逃げをしてしまった場合に相談、対応を依頼する弁護士の選び方と連絡方法についてみていきます。
加害者側弁護士を選ぶ際のポイント
加害者側の弁護士の選び方としては、弁護士の経験と強みについて注目する必要があります。
刑事裁判において、相手方は検察官という刑事事件だけを専門に扱うエキスパートであり、専門的な知識と経験がなければ太刀打ちすることができません。
そのため、刑事事件を得意としていること、そして刑事事件について豊富な経験を有していることが重要な判断要素となります。
弁護士との連絡方法と初回相談の重要性
弁護士への連絡方法としては、ひき逃げの犯人として逮捕や取り調べといった捜査を受けることになってしまった際に、本人やその家族がインターネットなどで弁護士を探し、電話やインターネット予約などを通じて連絡するという方法が一般的です。
弁護士については初回相談が重要といわれることが多くなっています。
これは、初回の相談で今後どういった主張をしていくのかが決まり、また相談・弁護活動の依頼をして初めて弁護士は活動を開始することになるためです。
弁護士費用と支援制度について
弁護士に相談し、弁護活動を依頼した場合には必然的に弁護士費用が掛かることになります。
ここでは、弁護士費用の内容と、弁護士費用の支援制度についてみていきます。
加害者側弁護士の費用について
弁護士費用としては、弁護士費用の計算方法は、事務所や弁護士ごとに異なります。
その計算方法としては、着手金と成功報酬で構成されるパターンと、相談などで要した時間で金額を決めるタイムチャージ式のパターンがあります。
交通事故加害者の場合には法律相談というよりは弁護方針を決めた上での証拠収集に時間が割かれることになり、成功報酬も考えられることから、前者の計算方法が採用されることが多くなっています。
そして、前者の着手金と成功報酬のパターンの内訳としては、着手金、成功報酬、日当、実費の4種類に分けられます。
着手金は弁護士に弁護活動を依頼するにあたって最初に払う金銭となります。
成功報酬は不起訴処分を得る、量刑面で有利な判断を得るなど弁護活動に成功した場合に、その成果に応じて払われる金銭となります。
日当は事故現場を実際に弁護士が確認しに行く、逮捕中の加害者との面会に行くなど弁護士にとっての出張を要する活動がなされた場合に、日当として支払われる金銭です。
実費とは実際に要した交通費や印紙代、切手代などの金銭となります。
刑事事件における弁護士費用支援制度の解説
刑事事件の加害者が利用できる弁護士費用支援制度としては、国の制度である国選弁護人制度と日弁連の制度である刑事被疑者弁護援助制度があります。
国選弁護人制度は、原則として国の費用負担により弁護人を選任できる制度であり、現行の刑事訴訟法では逮捕後の勾留がなされた全事件(被疑者国選弁護人制度)と被告人(被告人国選弁護制度)であれば利用することができます。
刑事被疑者弁護援助制度は、国選弁護制度の対象外となっている逮捕中の事件について、弁護士費用を日弁連が支払うというものとなっています。
いずれの制度においても、原則としては国や日弁連が費用負担をすることになっていますが、資力に余裕がある場合や、事件当時は資力に乏しくても、のちに資力が回復した場合には加害者自身に費用負担を求められることがあります。
また、弁護士費用の支援制度ではありませんが、初回相談の重要性から逮捕・勾留されている被疑者が初回1回のみ無料で弁護士に相談をすることができる当番弁護士制度もあります。
そして、一部の保険会社では、交通事故を起こしてしまった場合の刑事弁護活動について、弁護士費用特約を利用できる制度を導入していますので、保険会社に加入している場合には確認してみるのも有益でしょう。
まとめ
今回説明した加害者側弁護士の役割と選び方における重要ポイントを以下にまとめました。
加害者側弁護士の重要性と役割のまとめ
交通事件であっても刑事事件化してしまうことがあります。
その場合には、相手方は検察官という国の刑事事件の専門家であり、その検察官に対抗するためには専門的知識を有する弁護士の力が必要不可欠となります。
弁護士の役割としては、加害者からの法律相談に応じる、証拠収集を行うという法的なサポート、そして孤独なまま捜査に応じなければならない加害者の精神的サポートなどがあります。
加害者側弁護士に頼むメリットと注意点の再確認
加害者が弁護士に弁護を依頼するメリットとしては、弁護士の弁護活動によって不起訴処分や量刑面での有利な結果が期待できることにあります。
万が一、ひき逃げをしてしまったというときは一刻も早く弁護士に相談することをおすすめします。
この記事の監修者
弁護士法人エースパートナー法律事務所市川 知明弁護士
■神奈川県弁護士会
刑事事件は、いつ弁護士に依頼するかによって、対応の幅が変わったり、不起訴処分や減軽の可能性が高くなったりします。
弁護士法人エースパートナー法律事務所は、逮捕段階・勾留段階、逮捕前のご相談も受け付けております。
「依頼者の方との絆”を大切に、迅速・適切・こまめなサポート」をモットーに日々尽力しておりますので、刑事事件でお困りの方はご相談ください。
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