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秋葉原あやめ法律事務所弁護士 岡島賢太

「執行猶予という言葉をニュースなどでよく耳にするけれど、執行猶予付きの有罪判決は執行猶予が付かない有罪判決とどう違うのか詳しく知りたい」

執行猶予とは、刑事裁判で有罪判決が言い渡されるときに、一定期間刑の執行を猶予する制度のことです。

再び罪を犯すことなく執行猶予期間が経過することで、刑の言渡しの効力が消滅し、結果として刑務所に服役しなくても済むことになります。

執行猶予は、どのような刑についても言い渡すことができるわけではなく、一定の軽い刑に限って言い渡すことができます。

また、そのほかにも執行猶予を付けるためにはいくつかの条件があります。

この記事では、執行猶予の意味や執行猶予が付けられるための要件などについて詳しく解説します。

この記事を読むことで、執行猶予の制度についての理解を深めることができます。

執行猶予とは

「執行猶予」とは、その名のとおり、有罪の判決を言い渡す場合であっても刑の執行を猶予することができる制度のことです。

執行猶予制度は、比較的刑事責任が軽い者について、刑務所ではなく社会内での自発的な立ち直りを促すことを目的にした制度です。

執行猶予には、刑の全部の執行猶予刑の一部の執行猶予があります。

一般的に執行猶予といった場合には刑の全部の執行猶予のことを指すことが多く、また刑の一部の執行猶予は薬物犯罪など一部の犯罪を除いてはあまり活用されていません。

ここからは、断りがない限り刑の全部の執行猶予についてご説明します。

執行猶予の要件

執行猶予付きの判決を言い渡すことができる条件は、刑法に定められています。

執行猶予には、「初度」(1回目)の執行猶予「再度」(2回目以降)の執行猶予があり、それぞれ条件が異なります。

初度の執行猶予の要件

初度の執行猶予を付けられるのは、次の者に対してです。

  • 禁錮以上の刑に処せられたことがない者
  • 禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終えた日から5年以上が経過している者



例えば、過去に全く犯罪歴がない場合には、執行猶予の対象となります。

また、過去に禁錮以上の犯罪歴があったとしてもそれによって刑を終えたのが10年以上昔の出来事であるなど、刑の執行終了後5年を経ている場合には、やはり執行猶予の対象となります。

初度の執行猶予は、次のような刑を言い渡す場合に付けることができます。

  • 3年以下の懲役・禁錮
  • 50万円以下の罰金



例えば、裁判官が「懲役3年」を科すべき刑として決めた場合には、さらに執行猶予を付けることができます。

これに対して「懲役5年」を科すべき刑として決めた場合には、執行猶予を付けることができません。

「3年以下の懲役・禁錮」というのは、言い渡される刑の重さであって、法律上定められている刑である法定刑ではありません。

このため、法律上は3年より長い懲役刑が法定刑として定められている場合であっても、言い渡す刑が3年以下であるのならば執行猶予を付けることができます。

なお、執行猶予を付けるかどうかは、裁判所の裁量で決めることであり、要件を満たした場合に必ず付けられるわけではありません。

また、初度の執行猶予の場合には、裁判所は裁量によって保護観察に付することができることとされています。

再度の執行猶予の要件

再度の執行猶予は、以前に禁錮以上の刑に処せられてその執行を猶予された者がその執行猶予期間中に再度罪を犯して有罪の判決を受ける場合に問題となるものです。

この場合、次の要件を満たせば、再度の執行猶予を付けることができます。

  • 1年以下の懲役・禁錮の言渡しを受けるものであること
  • 情状に特に酌量すべきものがあること



執行猶予期間中の再度の犯罪には執行猶予を付けることができないのが基本ですが、特に罪が軽く、刑務所に服役させることが相当でない事情がある場合には、再度の執行猶予を付けることができるとしたのです。

例えば、前に窃盗罪で「懲役1年執行猶予3年」の刑を言い渡され、その後執行猶予期間中にまた窃盗罪を犯して起訴され、裁判官は「懲役6月」が相当であると考えたとします。

この場合には、情状に特に酌量すべきものがあり、実刑判決により刑務所に服役させることが相当でないと裁判官が考えた時には、「懲役6月執行猶予5年」のように再度の執行猶予付きの判決を言い渡すことができます。

実務上よくある例として、窃盗依存症(クレプトマニア)が原因で短期間のうちに万引きを繰り返してしまって起訴されたものの、クレプトマニアの専門的な治療を病院に通院してしっかりと受けているケースなどで、「情状に特に酌量すべきもの」があると判断されるケースがあります。

再度の執行猶予付きの有罪判決が言い渡される場合には、必ず保護観察が付されます。

罰金刑に対する執行猶予の実情

法律上は、罰金刑に対しても執行猶予を付けることができます。

しかし、実務上は罰金刑に対して執行猶予を付けることはほとんど行われていません。

罰金刑が科される場合には、基本的には実刑となって罰金を納めなければならないと思っておいたほうがよいでしょう。

執行猶予の判断にあたって考慮される事情

執行猶予は、法律上付けることができる場合でも必ず付けられるわけではなく、裁判官の裁量によってどのようにするかが判断されます。

もっとも、全くの自由裁量で執行猶予を付けているわけではなく、ある程度考慮される事情は決まっています。

執行猶予の有無を含めた量刑判断は、実務上、犯情の軽重や一般情状の内容を基本にして行われています。

犯情とは犯罪事実そのものに関連する事情のことであり、一般情状とは犯罪事実そのものとは直接的にはかかわりがない事情のことです。

例えば、次のような事情が犯情や一般情状として考慮されています。

  • 犯行態様の悪質性
  • 結果の重大性
  • 犯行に至る動機
  • 示談成立の有無
  • 被害弁償の有無
  • 被告人の反省の程度
  • 被告人の生活環境
  • 被害者側の落ち度



例えば、他人の財産を侵害する財産犯では、被害金額の多寡が犯情として最も重要視されます。

同じ詐欺罪でも、だまし取った額が5万円であるのと100万円であるのとでは大きく異なります。

被害金額が少なければ少ないほど執行猶予付きの判決となる可能性が高まります。

また、財産犯では被害弁償と示談をすることで被害回復が果たされたかどうかも重視されます。

だまし取った額が100万円の詐欺罪で、判決時までに100万円全額を返済したうえで慰謝料として30万円を支払った場合と、100万円のうち10万円しか返済できなかった場合では、大きく異なります。

一般的に、全額を弁償して示談できれば、執行猶予付きの判決が得られる可能性が高まります。

執行猶予の効果

執行猶予付きの有罪判決を言い渡された場合には、すぐに刑務所に服役する必要はなく、社会内で生活を送ることができます。

そして、再び罪を犯して有罪の判決を受けることなく執行猶予の期間を過ぎると、刑の言渡しの効力が消滅します。

刑の言渡しの効力が消滅するとは、初めからその刑の言渡しを受けなかったのと同じ扱いになるということです。

執行猶予の期間は5年以内の範囲で刑を言い渡す裁判所が決定します。

例えば、「懲役3年執行猶予5年」の判決を言い渡された場合には、刑の宣告後すぐに刑務所に行くことなく社会内で生活できます。

その後、再び罪を犯して有罪の判決を言い渡されることなく5年が経過したら、懲役3年という刑の言渡しの効力が消滅し、この刑について刑務所に服役することはなくなります。

これに対して、「懲役3年執行猶予5年」の判決を言い渡され、刑の宣告から2年が経った時点でまた罪を犯して起訴され禁錮以上の有罪判決の言渡しを受けた場合には、原則として執行猶予が取り消されます。

執行猶予が取り消されると、「懲役3年」の刑については、その時点からあらためて刑務所に服役しなければなりません。

執行猶予が取り消される条件

執行猶予が言い渡されたとしても、その後の事情によって一定の場合には執行猶予が取り消されてしまい、実際に刑務所に服役しなければならなくなります。

執行猶予が取り消される条件をしっかりと把握し、そのような条件にあてはまらないようにすることが大切です。

必ず執行猶予が取り消されるケース

次の場合には、必ず執行猶予が取り消されてしまいます。

  • 執行猶予の期間中に再び禁錮以上の刑の言渡しを受け、その刑について執行猶予の言渡しがないとき
  • 執行猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑の言渡しを受け、その刑について執行猶予の言渡しがないとき
  • 執行猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき



このうち、最もよくあるのが一つ目のケースです。

例えば、「懲役3年執行猶予5年」の刑の言渡しを受け、その4年後に「懲役1年」の実刑判決を受けた場合などはこのケースにあたります。

この場合には、執行猶予が取り消され、懲役3年と懲役1年の合計である4年間刑務所に服役しなければなりません。

執行猶予の言渡しを受けたら、執行猶予期間が経過するまでは特に注意して罪を犯さないように生活することが重要です。

もっとも、窃盗依存症(クレプトマニア)や性犯罪の依存症、薬物依存症など、犯罪の背景に病的なものがある場合には、自分だけの意思では罪を犯すのを抑えられないこともあります。

これらの犯罪によって執行猶予の言渡しを受けた場合には、専門的な病院などで治療プログラムを受けられないかどうか検討してみるようにしましょう。

治療を受けることで依存症を改善でき、再び罪を犯してしまうことを防げる可能性があります。

裁量によって執行猶予が取り消される可能性があるケース

次の場合には、裁判所の裁量によって執行猶予が取り消されることがあります。

  • 執行猶予の期間内に再び罪を犯し、罰金に処せられたとき
  • 保護観察に付された者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき
  • 執行猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予が付されたことが発覚したとき



この中で多いのが、一つ目のケースです。

例えば、「懲役2年執行猶予4年」の言渡しを受けた後、執行猶予期間が経過するまでの間に「罰金50万円」の言渡しを受けた場合には、このケースに当てはまります。

この場合、必ず執行猶予が取り消されてしまうわけではありませんが、裁判所の判断によっては執行猶予を取り消すことができます。

執行猶予が取り消されてしまった場合には、「懲役2年」の部分について刑務所に服役しなければなりません。

執行猶予の獲得に向けて弁護人がしてくれること

刑事裁判では、自分で弁護士に依頼して私選弁護人をつけることができます。

また、一定の要件を満たす場合には国の費用で国選弁護人をつけてもらうことができます。

弁護人がつき、執行猶予の可能性がある場合には、弁護人は執行猶予の獲得に向けてさまざまな弁護活動を行ってくれます。

弁護人が執行猶予に向けて行ってくれる弁護活動についてご紹介します。

被害者との示談に向けて活動してくれる

被害者がいる犯罪で執行猶予の可能性がある場合には、示談を成立させられるかどうかが非常に重要な分かれ目になります。

このため、弁護人は示談の成立に向けて活動をしてくれます。

示談のために必要な被害者の氏名・連絡先は、通常は弁護人限りでなければ教えてくれません。

弁護人は被害者の連絡先を教えてもらったら、示談に応じる意向があるかどうかを聞くために被害者に連絡を取ります。

被害者が示談に応じる意向があると回答してくれた場合には、弁護人は被告人から示談金を預かったうえで被害者と接触し、示談交渉をします。

被害者が示談金の額など示談条件に納得してくれ、示談が成立したら、示談金を支払うとともに示談書を作成します。

示談書は示談成立の証拠となるものなので、弁護人は刑事裁判の中で示談書を証拠として提出し、示談が成立したことを裁判官に伝えます。

示談が成立したケースでは、示談が成立していないケースと比べ、執行猶予を獲得できる可能性が大きく高まります。

このため、示談の成立は非常に重要な要素であるといえます。

被告人にとって有利な事情を探し出し主張してくれる

弁護人は、被告人にとって有利な事情を探し出して主張してくれます。

例えば、違法薬物を自己使用した罪で起訴されている場合、裁判官に被告人が薬物依存の状態にあると判断されると「仮に執行猶予を付けてもまたすぐに同じ薬物犯罪を行ってしまうのではないか」と思われて執行猶予がつけられづらくなってしまいます。

このような場合には、弁護人は被告人に専門的な薬物依存の治療プログラムを紹介し、通院治療するように勧めて、実際に被告人が通院治療するようになるとそのことを書面にまとめて証拠として裁判所に提出します。

薬物依存の治療プログラムを受け続けていることは、刑務所に服役させずに社会内で生活させたほうがよいと判断する材料になるものであり、裁判官にとっては執行猶予付き判決を言い渡す方向に働く事情であるといえます。

このように、弁護人が被告人に有利な事情を主張してくれることで、執行猶予付きの判決を得ることができる可能性が高まります。

まとめ:執行猶予付き判決で刑務所に服役しなくて済むが要件に注意

執行猶予付きの判決を得ることができれば、すぐに刑務所に服役しなくても済みます。

また、再び罪を犯すことなく執行猶予の期間を経過すれば、刑の言渡しが効力を失い、その後その刑について刑務所に服役する必要はなくなります。

執行猶予付きの判決を得られれば、刑務所に服役することなく社会生活を送り続けられる可能性があるので、執行猶予が付される可能性がある場合にはなるべく執行猶予付きの判決を獲得することが重要です。

執行猶予付きの判決を獲得するには、被害者との間で示談を成立させたり、被告人にとって有利な事情を最大限裁判官に伝えたりするなど、弁護人の弁護活動が重要です。

弁護人によっては、十分な弁護活動を行ってくれないこともあります。

特に国選弁護人は国から支給される報酬が非常に低いので、あなたにとって満足のいく弁護活動を行ってくれないかもしれません。

執行猶予を獲得するためには、そのための充実した弁護活動が非常に重要です。

可能であるならば、そのような充実した弁護活動を行ってくれる弁護士に私選弁護人となってくれるよう依頼し、弁護活動を依頼するようにしましょう。

弁護士なら誰でもいいというわけではありません。

刑事弁護を積極的に行っており、執行猶予を獲得するためにはどうしたらいいのかをよく知っている弁護士に依頼することが大切です。

刑事弁護が得意な弁護士に弁護活動を依頼して、執行猶予付きの判決を獲得し、たとえ有罪の判決を下されても刑務所に服役することなく社会内での生活を続けられるようにしましょう。

この記事の監修者

秋葉原あやめ法律事務所弁護士 岡島賢太

第二東京弁護士会所属

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