詐欺には2つの時効がある!詐欺罪の時効と民事上の時効の違いを確認しよう
公開日2022/07/07
更新日2022/09/01
カテゴリ詐欺罪・振り込め詐欺
詐欺を行った場合、刑事上の責任と民事上の責任が問われる可能性があり、それぞれに異なる時効期間が定められています。
そして、時効期間を経過すると、各責任を問われなくなります。
ここでは、詐欺事件の2つの時効の違い等について解説していきます。
【この記事のポイント】
- 詐欺罪の時効がわかる
- 民事上での詐欺の時効がわかる
- 詐欺罪の刑罰がわかる
詐欺は刑事と民事の2つの責任を負う
詐欺事件を起こした場合、刑事責任と民事責任の2つの責任を負う可能性があります。
刑事責任と民事責任では、具体的にどのような点が異なるのか説明していきます。
詐欺罪は懲役10年以下の刑罰が科される可能性がある
詐欺事件を起こした場合、懲役10年以下の刑罰が科される可能性があります。
詐欺罪は刑法246条で次のように定められています。
刑法246条(詐欺)
①人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
②前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
条文のとおり、詐欺罪は10年以下の懲役を科される可能性があります。
ただし、単に人をだましたり、嘘をついただけで、すぐに「詐欺罪」が適用されるわけではありません。
詐欺罪が成立するには、以下の条件を満たす必要があります。
【詐欺罪が成立する条件】
①欺罔行為(ぎもうこうい)…人をだます行為をしたこと ②相手方の錯誤…相手がだまされて嘘を信じた状態になること ③錯誤に基づく交付行為…だまされた相手が嘘を信じ込んで、金銭等、財産上の利益を交付したこと ④財物・財産上の利益の移転…交付した金銭等、財産上の利益が加害者や第三者の手に渡ったこと ⑤財産的損害…財産面で損害が生じたこと |
少しわかりにくいと思いますので、具体例にあてはめて考えていきましょう。
【例】オレオレ詐欺の場合
上記の例に詐欺罪の要件を当てはめてみましょう。
上記のように、故意に金銭等の財物を自分のものにしようとすると、詐欺罪が成立します。
詐欺には、コンピュータやその電磁的記録の不正操作等を行う「電子計算機使用詐欺」(刑法246条の2)や、未成年者の知慮浅薄または人の心神耗弱者に乗じて行う「準詐欺」(刑法248条)といった罪もあります。
これらの罪を犯した場合も、詐欺罪と同様に10年以下の懲役が科せられることがあります。
詐欺は民事上で損害賠償請求される可能性がある
詐欺事件は、刑事上の責任の他に、民事上の責任を負わなければならない可能性があります。
民事上の責任とは、端的にいうと被害者から損害賠償請求をされることです。
詐欺罪の有罪判決の確定は、加害者が被害者に対して被害弁済の義務を負うわけではありません。
したがって、被害者との示談が成立しなかった場合には、被害者が民事訴訟の手続きを取ることがあります。
詐欺行為は刑法だけでなく、民法709条で定められている不法行為にも当たります。
民法709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
基本的に詐欺罪の成立が認められると、その詐欺行為は民事上の不法行為としても認められる可能性が高いです。
また、被害者が詐欺行為によって精神的苦痛を被った場合には、慰謝料の請求(民法710条)を行うこともあります。
詐欺罪の時効はどれくらいの期間で成立するのか
詐欺罪は、悪質性の度合いによっては、初犯であっても実刑判決がくだる可能性のある重い罪です。
このような罪の場合、時効はどれくらいの期間で成立するのかを説明していきたいと思います。
詐欺罪は7年経つと時効が成立する
刑事罰の時効とは、検察が公訴の提起をできる期間をいいます。
公訴の提起とは、検察官が裁判所に対し刑事裁判を提起することで、一般的には起訴と呼ばれています。
公訴の時効は、法定刑の上限によって異なります。
詐欺罪の場合、法定刑は10年以下の懲役なので、上限は10年です。
これを刑事訴訟法で定められてた公訴の時効に当てはめると公訴期間は7年となります。
つまり、詐欺行為が終了した時点(※)から7年が経過すると時効が成立し、検察官によって起訴されることも、刑事罰を受けることもなくなります。
※共犯の場合は、最終行為があったときから時効が進行します。
時効は停止する可能性がある
詐欺罪は、基本的に詐欺行為の終了から7年で時効を迎えます。
しかし、7年経過すれば絶対に罪に問われることがないのかといわれれば、必ずしもそうではありません。
というのも、公訴の時効は停止する可能性があるからです。
次のような事情がある場合、時効の進行が一時的にストップします。
・検察が事件を起訴したとき ・共犯の場合、そのうちの1人が公訴を提起されたとき ・国外に逃亡した場合 ・犯人が逃げ隠れているため、起訴状謄本の送達や略式命令の告知ができなかった場合 |
これらの条件のいずれかに当てはまった場合、公訴の時効が停止となり、その分時効を迎える期間が延びることとなります。
民事上の詐欺の時効はどれくらいの期間で成立するのか
詐欺罪の時効と民事上の詐欺の時効は同じではありません。
民事上の詐欺の時効はどれくらいの期間で成立するのかを説明していきたいと思います。
民事上の詐欺は不法行為の時効が適用される
民事上の詐欺は、不法行為に当たるため、不法行為に基づく損害賠償請求権の時効が適用されます。
不法行為による損害賠償請求権は、民法724条に規定されており、次のいずれか早い方の期間が経過すると時効によって消滅します。
「損害および加害者を知った時」としているため、詐欺被害を知っているだけでは時効は進行せず、詐欺被害とその加害者の両方を知った時から3年間経過する必要があります。
加害者がわからない間は、事件発生から20年が経過しない限り、損害賠償請求権は消滅しません。
被害者から支払い請求を受けると時効が長くなる
民事上の詐欺は、被害者の対応で、損害賠償請求権が時効により消滅するまでの期間が延びる場合があります。
時効制度には、「時効の更新」と「時効の完成猶予」という仕組みがあります。
「時効の更新」とは、それまでに経過した時効期間をリセットして、新たに期間を進行させることです。
対して「時効の完成猶予」とは、時効期間の進行を一時的にストップすることをいいます。
「時効の更新」や「時効の完成猶予」があることで、損害賠償請求権が消滅するまでの期間は長くなります。
「時効の更新」や「時効の完成猶予」は、次の場合に生じます。
時効の完成猶予が生じるケース ①裁判上の請求を行う(民法147条1項) ②強制執行を行う(同法148条1項) ③仮差押えを行う(同法149条) ④催告を行う(同法150条) ⑤権利について協議を行う旨の合意を行う(同法151条) ⑥天災等により、裁判上の請求等や強制執行等の手続きができない場合(同法161条) 時効の更新が生じるケース (1)上記①で、確定判決または確定判決と同一の効力を有する者によって権利が確定した場合(同法147条2項) (2)上記②で、事由が終了した場合(同法148条2項) (3)相手方が権利を承認した場合(同法152条1項) |
加害者が被害者に時効援用を伝えない限り時効にならない
民事上の時効は、刑事事件の公訴の時効とは少し異なる部分があります。
民事上の時効は、時効となる期間が経過していても権利が自動的に消滅するわけではありません。
当事者が時効を「援用」することで時効が完成するのです。
時効援用とは、端的にいうと請求される側が「時効となる期間が経過したので、権利は消滅しましたよ」と請求する側に意思表示をすることです。
例えば、詐欺被害者から時効となる期間が過ぎてから損害賠償請求をされた場合、請求を受けた加害者が時効の援用をしたいのであれば、「時効によって損害賠償請求権は消滅したので応じない」と自分の意思を伝えなければなりません。
仮に加害者側が時効の成立を知らず、「損害賠償請求に応じる」という意思を表示したり、実際に被害者の請求に応じ、損害賠償金を支払ったりする等の行為をした後に時効期間が経過していると気づいた場合、さかのぼって時効の援用をすることはできません。
詐欺罪の疑いをかけられたり逮捕されたりした場合には弁護士に相談しよう
詐欺事件の嫌疑をかけられたり、家族が詐欺の疑いで逮捕された場合は、早急に刑事事件に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
日本の刑事裁判は有罪率が非常に高く、起訴されてしまうとほぼ間違いなく有罪となります。
有罪となれば、刑罰が科されるのはもちろんのこと、前科が付くことで、生活に支障をきたすおそれがあります。
特に、詐欺罪の法定刑は懲役刑のみです。
実刑判決を受けると刑務所に収監されることになり、大きな不利益を受けます。
そのため、刑事裁判となる前に釈放される不起訴処分を得ることが、非常に重要となります。
不起訴処分や刑事裁判での刑罰軽減を目標とする場合、被害者側との示談が最優先となります。
詐欺罪等の財産犯の場合、被害を弁償し、真摯な謝罪を申し入れることで、被害届の取り下げや不起訴処分となりやすくなるからです。
そして、示談の成立には弁護士の協力が不可欠です。
刑事弁護に精通した弁護士に依頼することで、被害者側との示談交渉を適切に進めることができます。
まとめ
今回は、詐欺事件に関する刑事責任と民事責任の違いについて解説しました。
刑事事件は早期に対応することで、逮捕等によって被る不利益を最小限にとどめられる可能性が高くなります。
そのため、お困りの場合には迷わず刑事事件に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
この記事の監修者
さくらレーベル法律事務所櫻井 唯人弁護士
【所属】第二東京弁護士会
「出会う弁護士によってその後の人生が変わる」という信念のもと、多くの案件に携わってきました。特に刑事事件、犯罪被害者の支援、交通事故対応に注力しており、その他、どんな案件にも迅速・丁寧に対応します。
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