【弁護士監修】不起訴と執行猶予について
公開日2022/07/11
更新日2022/08/02
カテゴリ刑事事件の基礎知識ファイル
【この記事のポイント】
- 不起訴処分の具体的な内容がわかる
- 執行猶予がつく条件が知れる
自分の行為が刑法や、その他の刑事罰が科される法律(以下「刑法その他の法律」といいます)に抵触するのか、自分自身ですぐに判断できないことは少なくありません。
刑法その他の法律に触れるような犯罪行為をした場合、直ちに身柄を拘束され、そのまま長期間身柄を拘束され続けなければならないのでしょうか。
また、刑法その他の法律に触れた犯罪をした場合、直ちに刑務所に収監されてしまうのでしょうか。
刑法その他の法律に触れるような犯罪をしたとしても、被害内容が軽微であったり、被害者の方に謝罪し、被害弁償がなされていたりすると、「処罰を受けない」、「前科として残らない」という不起訴処分の扱いをされることがあります。
また、検察官に起訴されてしまい、刑事裁判にかけられることは避けられないとしても、被害弁償がなされていたり、情状酌量の余地がある場合には、有罪とはなりますが、執行猶予といって一定期間に新たな犯罪をしなければ刑務所へはいかなくてもよいという判断をしてもらえることもあります。
今回は、そもそも不起訴や執行猶予とは何なのか、また弁護士に依頼するメリットについて解説していきたいと思います。
不起訴とは具体的にどのような処分?
警察は捜査をすると、捜査によって収集した証拠や、逮捕した者を、検察官に送致します。
検察官は、送致された被疑者に対して、「刑事裁判をするのが相当か」、「刑事裁判をするとしてどのような裁判にするのが相当か」を判断します。
刑事事件において、犯罪の疑いをかけられている者を被疑者といいます。
被疑者に対して刑事裁判が行われることを申し立てるのは、検察官しか持つことのできない権限です。
検察官が被疑者に対する刑事裁判が行われることを裁判所に申し立てることを「起訴」といいます。
「嫌疑なし」で不起訴処分とは
検察官が、送致された被疑者に対して、「犯罪行為をした者でないことが明白」と判断したり、「犯罪の成立を認定できる証拠のない」ということが明らかな場合には、「嫌疑がない」という理由で、起訴をしないことになります。
送致された被疑者が身代わり犯人であったり、犯罪が行われた時刻に犯行現場にいなかったなどのアリバイがあった場合、検察官は、被疑者に対する嫌疑はないと判断し、「嫌疑がない」ということで不起訴とします。
「嫌疑が不十分」で不起訴処分とは
犯罪を行っていないことが明白とまではいえないが、裁判所において有罪と認定されるのに十分な証拠がない場合には、「嫌疑が不十分」であるという理由で検察官は不起訴とします。
「起訴猶予」で不起訴処分とは
送致された被疑者が犯罪を犯したと認定されるのに十分な証拠はあるものの、被害者との示談が成立している、前科前歴がなく反省もしている場合、「この被疑者は刑事処罰をしなくてもよい」と検察官が判断する場合があります。これを起訴猶予といいます。
令和3年の犯罪白書によれば、刑法犯の起訴率は37.4%、道路交通法違反を除く特別刑法犯の起訴率は48.8%となります。
令和2年において検察庁で処理された被疑者総数のうち全体の起訴率は33.2%となります。
令和2年における不起訴となった人の総数は152,569人、そのうち、起訴猶予となったのは、105,986人です。
「刑事処分を避けたい」、「前科をつけたくない」と考えた場合、刑事裁判で無罪判決を受けるよりも、その前の段階で検察官から不起訴処分を得る確率の方が高いといえるでしょう。
※1.令和3年犯罪白書を参考
※2.平成13年~令和2年起訴・不起訴人員等推移を参考
※3.令和2年不起訴人員(理由別)を参考
執行猶予とはどのような処分をいうのか
執行猶予とは、有罪判決に基づく刑の執行を一定期間猶予し、その間に罪を犯さなかった場合に刑罰権を消滅させる制度です。
2016年からは、すべての刑に執行猶予が付く全部執行猶予だけでなく宣告刑の一部だけの執行を猶予することを可能とする一部執行猶予制度が創設されました。
一部執行猶予制度が適用された場合、「被告人を懲役2年に処する。その刑の一部である懲役4月の執行を2年間猶予する」というような判決が下されます。
上記のケースでは、猶予されなかった期間(1年8月)を実際に刑務所へ服役します。
猶予されなかった1年8か月の刑期を終えて釈放され、その後2年間の猶予期間中に新たな有罪判決をうけなければ、4か月分の執行はされないことになります。
なお、令和元年における有期懲役となった有罪判決46,086件のうち、約60.9%刑となる28,044件について、刑の全部執行猶予がされています。(※)
執行猶予される条件とは?
刑の執行が猶予されるには、次のようなものが必要となります。
- 言い渡された判決が、3年以下の懲役、もしくは禁錮、又は50万円以下の罰金であること
- 前に禁錮以上の刑に処せられたことがないか、または、前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがないこと
- 情状により刑の執行を猶予するのを相当と判断されること
執行猶予期間は、裁判が確定した日から1年以上5年以下となります(刑法25条)。
不起訴とは裁判にならないこと
不起訴とは、ざっくりいうと刑事裁判にかけられずに、その前段階で事件が終了することです。
検察は、犯罪行為をした疑いがあり逮捕された人(犯罪の嫌疑をかけられた被疑者)を起訴するかどうかを決める権限を持っています。
つまり、検察が「犯罪を行った疑いはかなり強いし、証拠も十分であるが、反省してるし、被害弁償もされているから、裁判にかけないで、社会内処遇で更生させた方がよいだろう」と考えた場合には、裁判所に起訴しないこともあるのです。
検察が不起訴と判断すると、前科がつくことはありません。その後、日常の生活に戻ることができます。
執行猶予は実刑をまぬがれることができる
執行猶予とは、端的にいうと裁判所から有罪判決が下った場合、ある一定の期間犯罪行為をしなければ、実刑をまぬがれることができることを指します。
つまり、執行猶予が付けば、刑務所に入れられることなく、日常生活に戻れるのです。
ただし、どんな罪でも執行猶予を付されるわけではありません。
執行猶予が付く条件として、3年以下の懲役、もしくは禁錮、または50万円以下の罰金の判決が下った場合のみです。3年以下の懲役が下される場合であっても、裁判所が「犯罪を行ったのにも関わらず、反省が見られない」「再犯の可能性が高い」と判断した場合には、執行猶予はつきません。
不起訴にしたいときに弁護士に依頼するメリット
犯罪を行って、逮捕されたとしても不起訴になる可能性はあります。
ただし逮捕され身柄が拘束されている場合、友人や、知人との接見が禁止される場合があります。
また、そのような接見禁止がつかなくても、一般人が面会できる時間は平日の限られた時間だけです。
接見時間は20分程度です。起訴するか否かを判断するのは、検察官です。
検察官に、起訴猶予となる理由を整理して主張し、検察官と交渉することができるのは弁護士だけです。
不起訴に向けた活動をする必要がある場合には、速やかに弁護士に依頼をする必要があります。
検察との交渉
不起訴を得るため、弁護士に依頼するメリットとして、検察との交渉を行ってくれることです。
事件を起訴するかどうかは、検察だけが持つ権限です。
そのため事件の検察官に不起訴が妥当な処分であることをしっかりと伝えて、交渉する必要があるわけです。
被害者と示談交渉
被害者がいる犯罪の場合、起訴猶予を得るためには、被害弁償がなされているか否かが非常に重要な要素となります。
例えば、窃盗事件の場合、被害品の回復や、被害弁償の支払がなされているかは、起訴する段階の判断において重視されます。
また痴漢事件の場合、被害者側と示談ができているか否かは、起訴するか否かを判断する上で、極めて重要な要素になるのです。
捜査機関との交渉においても弁護士のサポートが受けられる
身柄拘束をされていない在宅事件の場合、弁護人が選任されることで、捜査機関(警察)からの圧力を直接受けることが軽減されるケースもありえます。
また、取り調べにおいて、どのように対応すればよいのか、アドバイスを受けることもできます。
被疑者が真摯に反省していること、被害弁償に向けた活動をしていることは、その後の検察官による処遇の判断にも影響します。
執行猶予にしたいとき弁護士に依頼するメリット
被疑者段階での捜査で、示談が間に合わず、起訴相当とされて刑事裁判に掛けられてしまった場合でも、まだ、刑の執行猶予を受ける可能性は残っています。
起訴されると、有罪判決を受ける可能性は99%近いといわれています。
しかし、刑事裁判で有罪判決を受けたとしても、執行猶予が付けば、日常生活に戻ることができます。
起訴された後も、被害弁償の交渉を引き続きおこなったり、情状証人として出頭していただける人を探したり、雇用の継続が確保されるよう勤務先と交渉したりすることで、執行猶予がつく可能性が高まります。
以上のような活動を、起訴後に行えるのは、弁護人のみです。
まとめ
不起訴とはなにか、執行猶予とはなにか、どのような場合に不起訴としてもらえるのか、また、執行猶予が付けられるのかということについて解説をしました。
初犯だからといって必ずしも不起訴や執行猶予が付くわけではありません。
「どうせ軽い罰だろう」と思って、何もしないでいると実刑判決が下ってしまう可能性があります。
刑事裁判にかけられないようにするためには、弁護士の協力が不可欠といえるでしょう。
この記事の監修者
パークス法律事務所鈴木 一弁護士
【所属】第一東京弁護士会
逮捕直後から勾留が開始されるまでの期間は、家族や友人等と連絡を取り合うことは原則としてできません。
それなら、「国選弁護人」を選任すればいいと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、国選弁護士人は勾留後から選任が可能となる制度なので、勾留が開始される前には選任することができません。
逮捕から勾留開始までの期間に弁護活動を行えるのはご自身やご家族が依頼した弁護士だけです。
刑事事件は専門性が強く、また時間との勝負です。
お悩みの方は、まずは当事務所にご相談ください。
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