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起訴とは|意味や起訴前後の流れ、対応方法を解説

起訴とは|意味や起訴前後の流れ、対応方法を解説

公開日2024/01/23

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秋葉原あやめ法律事務所弁護士 岡島賢太

「起訴という言葉を聞くことがあるけれど、具体的にはどういう意味なんだろう?」

起訴という言葉そのものは比較的身近でありよく耳にする言葉かもしれません。しかし、その正確な意味については、はっきりと分からないという方もいるでしょう。

起訴とは、罪を犯したと疑われている人を刑事裁判にかける手続きです。

起訴は、検察官だけが行うことができます。

起訴をされると、起訴された人(被告人)は刑事裁判を受けなければなりません。

この記事では、刑事事件の「起訴」について、詳しく解説します。

「起訴」とは何か

起訴とは、罪を犯したと疑われている人(被疑者)を刑事裁判にかける手続きです。

起訴されると、被疑者は「被告人」という立場に変わります。被告人とは、刑事裁判を受けている立場にある人のことです。

起訴は、原則として検察官だけが行うことができます。検察官以外の者が起訴を行うことは原則としてありません。

このことから、ある事件について起訴されるかどうかは、検察官がどのように判断するかが非常に重要となります。

刑事事件と民事事件の「起訴」(訴え提起)の違い

「起訴」という言葉は、刑事事件についてのみ用います。

民事事件に対しては用いません。

民事事件では、一般的に「訴え提起」(訴訟提起)という言葉が用いられます。

このことから、「起訴」という言葉が使われていれば、それは刑事事件の話だということが分かります。

それでは、そもそも刑事事件と民事事件とは何が違うのでしょうか。簡単にご説明します。

刑事事件とは

刑事事件とは、罪を犯したと疑われている人について、犯罪事実の有無などを審理し、有罪として刑を科すか無罪を言い渡すかを判断する裁判手続きです。

刑事事件は、検察官という国家機関が被告人を訴追する手続なので、必ず一方の当事者は検察官(国)です。

民事事件とは

民事事件とは、私人間のトラブルについて、裁判手続きを通じて裁判官に終局的な判断(判決)をしてもらい、争いごとを解決しようとする手続きです。

民事事件は、例えば貸したお金を返してもらえないから返してほしいと訴える場合や、賃料を支払わずに建物に居座り続けているから建物を明け渡してほしいと訴える場合など、さまざまなものがあります。

民事事件では、個人の持つ請求権の有無が判断され、判決という形で裁判官の終局的な判断が下されます。

私人間の争いごとを解決するために請求権の有無が判断される民事事件と、罪を犯したと疑われている人に刑を科すために検察官(国)がその人を訴追する刑事事件とでは、同じ裁判であるように見えて全く性質が異なります。

起訴の種類

起訴には、大きく分けて「正式起訴」「即決裁判請求」「略式起訴」の3つの種類があります。

このうち、即決裁判請求はほとんど用いられることがなく、実務上は正式起訴と略式起訴の2つがほとんどを占めています。

単に「起訴」とだけいえば、正式起訴(公判請求)のことを指すのが一般的です。

これらの3つの起訴の種類についてご説明します。

正式起訴(公判請求)

正式起訴は、公判請求ともいいます。

「公判」とは、公開の法廷で行う刑事事件の審理のことです。

正式起訴は正式な刑事裁判を求める起訴であり、起訴されると正式な刑事裁判にかけられて公開の法廷で審理がなされることとなります。

正式な刑事裁判では、証拠の取調べ被告人質問が行われます。

場合によっては証人から直接話を聴く証人尋問が行われることもあります。

そのうえで、検察官と弁護人がそれぞれ意見を述べる論告・弁論がなされ、それを踏まえて裁判官が判決を言い渡します。

正式裁判では、罰金刑や執行猶予付き判決のほか、懲役刑の実刑判決についても言い渡すことができます。

これに対して、後でご説明する略式裁判では懲役刑の実刑判決を言い渡すことはできません。

即決裁判請求

即決裁判請求は、原則1回の審理で裁判手続きを終え、その日のうちに判決の言渡しまで終えてしまう「即決裁判手続き」を求める起訴です。

即決裁判手続きでは、正式裁判の手続きと少しルールが異なります。

一番の特徴は、1回の審理期日で全ての審理を終え、かつ、その日のうちに判決の言渡しまで終えてしまうことです。

また、審理期日は起訴の日から14日以内に設定されます。

即決裁判の判決では、必ず執行猶予を付けた判決を言い渡さなければなりません。

このように、即決裁判請求がなされると、すみやかに裁判が開かれて1回の審理期日で判決まで言い渡され、執行猶予もつけられるので、被告人にとってはなるべく早くに裁判手続きから解放されるというメリットがあります。

もっとも、即決裁判手続きは、実務上、ほとんど採用されていません。

即決裁判手続きがとられる可能性がある事件は、大麻事件などの薬物事件オーバーステイなどの入管法違反事件などに限られています。

一般の事件については、運用上、即決裁判請求がなされることはほとんどありません。

略式起訴

略式起訴は、罪を犯したことに争いがなく、100万円以下という軽い罰金刑にとどまることが見込まれるような比較的軽微な事件について、公開の法廷での審理を開かずに裁判所の書面審理によって罰金刑を言い渡す「略式裁判手続」を請求する起訴です。

略式起訴は、主に、道路交通法違反の罪、暴行罪、窃盗罪などでなされることがあります。

これらは、100万円以下の罰金刑が法定刑として定められており、被告人に罪を犯したことについて争いがないのであれば書面審理で罰金刑を科すこととしても不当ではなく、合理的に事件が処理できるというのが、略式起訴がなされる理由です。

これに対して、強盗罪や詐欺罪などには罰金刑の定めがなく、犯罪としても比較的重いものなので、略式起訴がなされることはありません。

起訴までの流れ|逮捕・勾留されるケース

ここからは、犯罪の疑いが生じてから起訴されるまでの流れについてご説明します。

ここでは、主に逮捕・勾留がなされるケースを念頭に置いてご説明します。

任意取調べ

警察などの捜査機関が、何らかの犯罪が発生したという疑いを抱いた場合には、捜査が開始されます。

捜査が開始されると、可能であれば、まずは任意取調べがなされます。

任意取調べは、罪を犯したと疑われている人(被疑者)や被害者、事件について事情を知っている第三者(参考人)などから、任意に事情を聴くことです。

任意取調べは、あくまでも任意なので、求められても拒否することは可能です。

強制的に連行されて取調べを受けるということもありません。

任意取調べだけで捜査を進めることができると捜査機関が判断した場合には、その後の逮捕などといった身体拘束はなされません。

このような場合には、起訴・不起訴の決定まで任意取調べだけで捜査が進むこともあります。

また、逆に、現行犯人の場合や任意取調べによって捜査を始めることが不適切であると認められる場合、任意取調べをする余裕がない場合などには、捜査がいきなり逮捕の段階から始まることもあります。

逮捕

捜査機関が逮捕の必要があると判断した場合には、裁判所に逮捕状を請求したうえで被疑者を逮捕します。

また、警察官などの目の前で犯罪が行われた場合など現行犯の場合には、裁判所による逮捕状の発付を受けないで逮捕がなされることもあります。

被疑者が逮捕されると、まず弁解録取の手続きが取られ、被疑者の言い分が聴かれます。

そのうえで、警察が逮捕した場合には48時間以内に検察官に対して被疑者の身柄とともに事件に関する書類一式を送致する手続をとります。

逮捕中の48時間には、逮捕された被疑者は弁護人以外の者と面会することができません。

家族であっても面会できません。

この段階では、弁護人だけが逮捕された被疑者に会うことができるので、弁護人による援助が非常に重要な局面であるといえます。

勾留

逮捕された被疑者を警察から受け取った検察官は、あらためて被疑者の言い分を聴いたうえで、24時間以内に被疑者についてさらに身体拘束を続ける「勾留」を請求するかどうかを決めます。

24時間以内に勾留請求がなされないときには、被疑者を釈放しなければなりません。

勾留請求がなされると、被疑者は裁判官の面前に連れていかれ、そこであらためて言い分を述べます。

裁判官は、被疑者の言い分を聴いて、勾留をするかどうかを決めます。

裁判官が勾留の決定をしたら、まずは10日間勾留がなされ、身体拘束が続きます。

10日間の勾留期間中に捜査機関が各種の捜査を進めます。

10日間の勾留期間中になされた捜査の結果として、検察官がさらに起訴・不起訴の決定のために捜査を尽くすために身体拘束を続ける必要があると判断し、勾留を延長する必要があると判断した場合には、裁判官に勾留延長の請求をします。

裁判官の判断により勾留を延長することが認められた場合には、さらに最大10日間の勾留延長がなされます。

以上により、勾留は最大で20日間にわたって続くことがあります。

最大20日間の勾留期間中に、検察官はその疑われている罪について起訴するか不起訴にするかの処分を決定します。

警察・検察官の取調べ

勾留期間中には、各種捜査の一環として、警察や検察官による取調べが行われます。

何回かにわたって被疑者を取り調べ、犯罪に関する事情を聴くほか、被害者や第三者(参考人)を取り調べることも行われます。

被疑者は、取調べに対しては言いたくないことは言わなくていいという権利(黙秘権)を持っています。

黙秘権は、憲法によって被疑者・被告人に保障された権利であり、黙秘権を行使したからといって被疑者を不利に扱うことは許されていません。

取調べを受けている被疑者は、黙秘権を行使して何も話さないということもできますし、自分から進んで犯罪に関する事情を話すこともできます。

取調べの場で被疑者が話したことは、捜査機関によって供述調書という書類の形にまとめられます。

供述調書は、身体拘束を続けるかどうかの判断資料になるとともに、後で刑事裁判になったときには証拠とされることがあります。

起訴・不起訴の決定

検察官は、勾留期間が終わるまでの間に、捜査の状況を踏まえて被疑者を起訴するか不起訴とするかの判断をします。

捜査状況を踏まえ、各種の関係証拠からすれば起訴後の刑事裁判で被疑者について有罪判決を得られるという確信があるときには、検察官は被疑者を起訴する決定をします。

これに対して、証拠関係から有罪判決を得ることが難しいと判断したり、有罪判決を得られる見込みがあるが諸般の事情を考慮して起訴を見送ることにすると判断したりすることもあります。

この場合には、不起訴処分の決定がなされます。

これらのほかに、勾留されている被疑者について起訴・不起訴の判断を保留して引き続き捜査を続けることとしたうえで釈放する「処分保留釈放」という手続きが取られることもあります。

有罪判決を得られる見込みがあるが諸般の事情を考慮して起訴を見送ることとすることを、不起訴処分の中でも特に「起訴猶予」といいます。

実務上は、有罪を獲得できる証拠があるにもかかわらず諸事情が考慮された結果として起訴猶予となるケースも非常に多くあります。

起訴・不起訴の決定は、検察官だけがその権限を独占して有しており、検察官以外の者は基本的には起訴・不起訴の決定をすることがありません。

このことから、勾留中の弁護活動を弁護人がするにあたっては、検察官にいかに不起訴処分をするのが妥当であると思わせるかが重要になります。

被疑者が起訴されると被告人としての立場に移り、刑事裁判手続きが始まることとなります。

起訴の後の流れ|正式裁判のケース

正式裁判のケースを念頭に置いて、起訴後の流れをご説明します。

起訴状送達

起訴をされると、それまで被疑者と呼ばれていた人は「被告人」という立場に代わります。

被告人に対しては、まず起訴状が送達されます。

起訴状の送達は、勾留中の被告人に対しては看守などから手渡され、勾留されていない被告人に対しては書留の郵便配達で送られます。

起訴状とは、検察官がどのような事実について犯罪が成立すると認めて有罪判決を裁判所に求めているのかが記載された書類です。

起訴状を見れば、被告人は自分がどのような事実について罪に問われているのかを知ることができます。

第一回公判期日

第一回公判期日は、刑事裁判の最初の公判期日です。

公判期日とは、公開の法廷で裁判手続きが行われる日という意味です。

第一回公判期日では、まず冒頭手続が行われます。

冒頭手続とは、被告人に氏名・住所等を尋ねて人違いでないかを確かめる「人定質問」、検察官が起訴状を読み上げて訴追する事件を明らかにする「起訴状朗読」、裁判長が被告人の黙秘権を告知する「黙秘権告知」、罪に問われている犯罪事実に対する被告人の認否を被告人が陳述して明らかにする「罪状認否」の4つの手続きから成る最初の手続きです。

冒頭手続が終われば、証拠調べの手続きへと移ります。

罪状認否において被告人が全面的に犯罪事実を否認して争うなど、事件の審理が複雑になると見込まれるケースでは、第一回公判期日においては冒頭手続などまでしか行われず、続きは次回以降の期日で行うこととされることがあります。

これに対して、犯罪事実を全面的に認めており争いがない場合などには、第一回公判期日でそれ以降の手続きも全て進めてしまい、次回に判決言渡しとなることもあります。

冒頭陳述・証拠調べ

冒頭陳述とは、検察官が証拠によって証明しようとする事実を説明する手続です。

その後、証拠調べ手続きが進められます。

証拠とすることに争いのない書証(書類の証拠)が取り調べられるほか、被害者や参考人から直接話を聴く必要がある場合には証人尋問が実施されることもあります。

証人尋問

被害者や第三者から直接話を聴くのが証人尋問です。

検察官や弁護人がそれぞれ交代で一問一答の質問をし、証人の証言内容を明らかにしていきます。

裁判官が質問をすることもあります。

証人の証言も、書証と同様に証拠として扱われます。

被告人質問

被告人から直接話を聴くのが被告人質問です。

被告人質問は、運用上、基本的に全ての刑事事件で実施されています。

被告人質問の方法は、証人尋問と変わりません。

また、被告人が供述したことが証拠となることも同じです。

論告、弁論

証拠調べ手続きが終わると、被告人が有罪であることを検察官が論述する「論告」が行われます。

また、科すべき刑はどのようなものが妥当であるかを明らかにして求める「求刑」も同時に行われます。

次に、これに対して、弁護人が意見を述べる「弁論」が行われます。

弁論では、無罪であるとの主張やより軽い刑を科すべきであるとの主張が述べられるのが一般的です。

その後、最後に被告人が言いたいことを述べる「最終陳述」がなされます。

これで判決以外の裁判手続きは終わりです。

判決言渡し

公判において全ての審理が終結すると、最後に裁判官が裁判手続きの結果を踏まえて、判決を言い渡します。

判決言渡しの期日は最後に審理期日とは別途設定されるのが一般的です。

裁判官が被告人について有罪と認めるときには、「懲役◯◯年」など科すべき刑を言い渡します。

これに対して、犯罪の証明がないと認めるときには、無罪を言い渡します。

起訴の判断基準|起訴されるのはどんなとき?

検察官が被疑者に対して犯罪の疑いを抱いたのであれば必ず起訴されるというわけではありません。

さまざまな事情を考慮したうえで、事情によっては犯罪の疑いが濃厚であるのにもかかわらず起訴がなされないこともあります。

どのような場合に起訴がなされるのか、起訴の判断基準についてご説明します。

嫌疑の程度

「嫌疑」とは、罪を犯した疑いのことです。

犯罪の嫌疑がどの程度あるのかということは、検察官が被疑者について起訴をするかしないかを決めるための最初のポイントです。

一般的に、検察官は、「被疑者を起訴するのであれば絶対に無罪とするわけにはいかない」という考えを持っている傾向にあります。

このため、検察官が「確実に有罪判決を獲得できる」と確信できるだけの非常に高い犯罪の嫌疑がなければ、検察官が被疑者を起訴することはありません。

検察官が、犯罪の嫌疑の程度が有罪判決を獲得するために十分ではないと考えた場合には、「嫌疑不十分」などの理由で不起訴処分とされることもあります。

犯人の性格、年齢及び境遇

犯罪の嫌疑が十分にあり、検察官としても有罪を獲得できる確信があるという場合であっても、さまざまな事情を考慮して起訴をしないとの判断を下すことがあります。

犯人の性格、年齢や境遇も、起訴をするかしないかの判断の際に考慮される要素の一つです。

例えば、犯人がまだ成人して間もなく、罪を犯すような悪い性格が深まっていないと考えられ、立ち直りのための家族の支援なども十分に期待できる境遇にあるときには、あえて起訴をしないという判断がなされることもあります。

逆に、罪を犯すような悪い性格が深まっており、周囲に立ち直りのための環境も整っておらず、起訴して厳重に処罰しなければまた罪を犯すおそれが高い場合には、起訴処分がなされやすいといえます。

犯罪の軽重

犯罪の行為や結果の内容を見て、罪が重いということができず、たとえ起訴しても軽い刑しか科されないと判断される場合には、不起訴処分となることがあります。

例えば、窃盗罪を犯したものの、盗んだものの価値がごくわずかであり、起訴して有罪判決を獲得しても最低限度の罰金刑しか科されないことが見込まれる場合などには、ほかの事情も考慮したうえで不起訴処分となる可能性が十分にあります。

逆に、詐欺罪に共犯として加担して一千万円を超える被害金をだましとった場合には、このような被害額の大きさは被害結果が重大であるとして起訴の可能性を高める方向に働きます。

情状

情状とは、犯罪に関する事情や犯罪に関する以外のさまざまな事情であって、刑の重さを決めるにあたって考慮されるもののことです。

犯罪に関する事情を「犯情」といい、犯罪に関する以外の事情を「一般情状」といいます。

犯情の例として、例えば、罪を犯すにあたって用意周到に計画をした場合とその場の偶発的な出来事が原因で突発的に罪を犯した場合とでは、犯罪の悪質性が異なると考えることができます。また、犯罪の動機が自分勝手なものなのか他人のためにやむなくしたのかによっても犯罪の悪質性は異なります。

また、他人の財産を盗んだりだまし取ったりするような犯罪をした場合、その後に被害者と示談を成立させたかどうかは、一般情状の一つとして大きく考慮されます。

「示談」とは、被害者に被害弁償をしたうえで被害者のゆるしを得ることです。被害者との間で示談を成立させていることは、起訴されない方向に強く働く事情です。

犯罪後の情況

犯罪後の情況とは、犯罪後に生じた一切の事情のことをいいます。

例えば、先ほどご説明した示談を成立させることができたかどうかなどは、犯罪後の情況の一つとしても考えることができます。

また、被害者が被害届を取り下げたり不起訴を願う嘆願書を検察官に提出したりしたことなども、犯罪後の情況として不起訴の方向に働く事情です。

刑事事件で弁護人がしてくれること

刑事事件では、当事者となった被疑者・被告人は弁護士に相談・依頼して「弁護人」として活動してもらうことができます。

刑事事件で弁護士を弁護人として選任した場合に弁護人がしてくれることについて、ご説明します。

弁護人は刑事弁護のエキスパート

「弁護人」とは、刑事事件で被疑者・被告人を弁護する役割の人のことです。

弁護人の立場には、弁護士だけがつくことができます。

弁護人は、刑事弁護のエキスパートです。

刑事事件について、どのような場合にどのような弁護活動をするべきかよく分かっており、被疑者・被告人のために権利を守るべく活動してくれます。

主に経済的な余裕がなく弁護士費用を払えない人が国の費用で弁護人をつけてもらう場合の弁護人を「国選弁護人」といます。これに対して、自分でお金を払って自分で選んでつける弁護人を「私選弁護人」といいます。

両者は、誰がお金を負担して選んでいるのかという点では異なりますが、弁護人として行える弁護活動の範囲や権限は同じです。

弁護人は、被疑者・被告人の権利を守るためにさまざまな活動をしてくれます。

取調べ対応

弁護人は、被疑者・被告人が取調べに対してどのように対応したらいいかをアドバイスしてくれます。

犯罪事実に争いがある場合などには、完全に黙秘するようアドバイスすることもあります。

「黙秘」とは、捜査官の取調べに対して黙っていて一切答えない対応のことです。

黙秘の権利である「黙秘権」は、憲法によって全ての被疑者・被告人に対して保障されている重要な権利です。

黙秘をすることで捜査機関に情報を与えないことができますし、証拠となる供述調書がつくられるのを防ぐこともできます。

黙秘に対して、犯罪事実に争いがなく身体拘束がなされている場合には、早期に身体拘束から解放してもらうことを目指して積極的に自白して供述をすることもあります。

「自白」とは、犯罪事実について認めたうえで、犯罪事実その他の事情について捜査機関に供述して情報を提供することです。

黙秘したほうがいいのか積極的に供述したほうがいいのかについては、個別の事件ごとに高度な判断が要求されます。

黙秘したほうがよりよい結果を得られることもあれば、黙秘ではなく積極的な供述をしたほうがより望ましい結果を得られることもあります。

刑事弁護の経験が豊富な弁護人であれば、取調べに対してどのように対応すればよいのか、適切なアドバイスをしてくれます。

示談交渉

弁護人がつけば、被害者との示談交渉もしてくれます。

捜査段階で示談が成立すれば、早期に身体拘束から解放されたり不起訴処分を獲得したりするための重要な材料となります。

被害者がいて示談をすることができる事件では、示談を成立させることが特に有効な弁護の戦略となることも多いです。

被害者の連絡先は、加害者本人には教えてもらえないことが一般的ですが、弁護人限りであれば捜査機関を通じて教えてもらえることも多くあります。

このことから、示談をするには弁護人の手助けが欠かせません。

証拠収集

不起訴処分・無罪の獲得に必要な証拠や早期の身体拘束からの解放のために必要な証拠の収集も、弁護人が行ってくれる弁護活動の一つです。

例えば、弁護人が、身体拘束からの解放のために加害者の家族から身元引受書などを取り付けたり雇用主から誓約書などを取り付けたりするなどの証拠収集を行うことがあります。

また、罪を犯したことを争っている場合には、関係者を尋ねて聞き込みを行ったり、現場を映したドライブレコーダーを確認したりするほか、現場に足を運んで有利な証拠がないか探すなど、被疑者・被告人の無罪を証明する証拠を集めに行くこともあります。

身体拘束への異議申立て

身体拘束への異議申立てとは、裁判所の勾留の判断に対して異議を申し立てる手続きを行い、早期の釈放を求めて争うことです。

例えば、裁判官によって勾留決定がされたら、そのような判断がおかしいことを主張して勾留決定に対する準抗告の申立てをすることもあります。

起訴後に勾留が引き続いていれば、「保釈」を請求することもあります。

「保釈」とは、裁判所の許可を得たうえで保釈保証金を納めて一時的に身体拘束から解放してもらうことです。

保釈を得ることができれば、身体拘束から解放されて自由の身になって裁判手続きに臨むことができます。

公判対応

弁護人は、公判手続きでは被告人の権利を守るために最大限の対応をしてくれます。

弁護人は、法律の手続きに従って被告人の主張を代弁します。

また、公判の中で不適切な手続きが行われたり被告人の権利が侵害されたりしそうなことがあれば、それらに対して最も適切な手続きを選択して異議を申し立てることもあります。

起訴されるとどうなる?|起訴のリスク

起訴されるとどうなるのか、起訴によって負うリスクについてご説明します。

被告人として刑事裁判を受ける

起訴されると、被告人して刑事裁判を受けなければならないという地位に立たされます。

刑事裁判を受けるにあたっては、ときには勾留されて長期間身体拘束が続くこともあります。

勾留されていなくても、公判期日には必ず裁判所に出頭して裁判を受けなければなりません。

刑事裁判を受ける地位に立たされるとさまざまな制約がかけられることとなり、このことは大きな負担となります。

有罪となり罰金や懲役(拘禁刑)などが科される危険がある

起訴されて刑事裁判を受けると、結果として有罪の判決が下される可能性が高いです。

有罪判決を下されると、罰金刑を科せられて多額のお金を払わなければならなかったり懲役刑(拘禁刑)などを科せられて刑務所に行かなければならなかったりする可能性もあります。

実際に刑を受けるリスクは被告人にとっては非常に大きなものです。

起訴前からの身体拘束が引き続く可能性もある

起訴前から勾留されている場合には、起訴されるとそこで解放されるわけではなく、通常は引き続き勾留され続けることとなります。

勾留は、最も長い場合では起訴されてから刑事裁判が終わるまで続くこともあります。

刑事裁判は、正式裁判であれば、全て自白している場合などどんなに短くても1〜2か月はかかります。

罪を犯したことを全面的に争っている場合や、第一審の判決内容に不服があって控訴・上告をする場合など、長ければ半年や1年以上にわたって裁判手続きが続けられることも多くあります。

その間ずっと勾留されて身体拘束が続く被告人もいます。

起訴後の勾留に対しては保釈の申請ができますが、必ず保釈されるわけではありません。

また、保釈が認められたとしても、通常は150万円以上の保釈保証金を納めることも必要になります。

いったん起訴されてしまえば身体拘束が非常に長く続く可能性があることも、起訴の大きなリスクの一つです。

起訴されたらどうしたらいい?|起訴後の対応

もし起訴されてしまったら、適切な対応を取ることが大切です。起訴後に取るべき対応をご紹介します。

私選弁護人を選任する

起訴されたら、私選弁護人の選任を検討してみましょう。

私選弁護人は、あなたが自分で誰を弁護人にするか選んで自分が負担する費用で依頼する弁護人です。

私選弁護人にはあなたが自ら報酬を支払わなければなりませんが、その分あなたのために積極的に弁護活動をしてくれます。

国選弁護人と私選弁護人とでは、どのような水準の弁護活動をするべきかの義務の程度は異なりません。

しかし、現実的には、私選弁護人のほうが国選弁護人と比べてより熱心に弁護活動をしてくれることも多いです。

可能であるならば、私選弁護人を依頼・選任して、保釈のための対応や公判への適切な対応をしてもらいましょう。

私選弁護人を依頼・選任することで、より有利な結果を得られる可能性が高まります。

弁護人と十分に意思疎通を図る

私選弁護人か国選弁護人かを問わず、弁護人と十分な意思疎通を図ることはとても大切なことです。

弁護人にあなたの要望を伝えたり疑問を解消するために質問したりすることは欠かせません。

弁護人は、あなたの権利を擁護するために活動してくれる存在です。

十分に意思疎通をすることで、弁護活動にあなたの意思を反映させることもできます。

あなたの意向を弁護活動に反映させたりあなたの不安を解消したりするためにも、弁護人とは十分に意思疎通を図るようにしましょう。

もしあなたの弁護人が国選弁護人であって、あなたと十分な意思疎通を図ってくれていないという場合には、私選弁護人を依頼・選任して交代してもらうことも検討してよいことです。

私選弁護人を選任すれば、それによって国選弁護人と交代してもらうことができます。

起訴されたケースと弁護人の対応が成功した例

実際に起訴されたケースと弁護人の対応が成功した例についてご紹介します。

ケース1:強制わいせつ罪

強制わいせつ罪を犯した疑いで逮捕・勾留され、起訴されたケースです。

このケースでは、女性のスカートの中に手を差し入れて触ろうとしたという疑いで起訴されましたが、被告人は捜査段階から一貫してそのような行為がなかったと主張し犯行を否認していました。

弁護人は、捜査段階では被告人に黙秘を指示し、被告人にとって不利な供述調書が作られないようにしました。

また、公判段階では被害者や第三者の供述調書を証拠とすることに同意せず、被害者などの証人尋問が行われることとなりました。

弁護人は被害者などの証人尋問で被害者の証言におかしいところがないか確認し、反対尋問で被害者証言が信用できないことを基礎付ける事実を探しました。

このようにして、弁護人は被告人の無罪であるという主張を裏付ける証言を探し、被告人自らにも被告人質問でそのことを語らせることで、裁判所に無罪の主張を伝えました。

ケース2:詐欺罪

特殊詐欺の受け子として詐欺罪に関与した疑いで起訴されたケースです。

このケースでは、被告人は捜査段階から一貫して詐欺に関わる行為だと知らなかったとして無罪を主張していました。

弁護人は、被告人と何度も接見などでやり取りを重ねて、被告人がどのような認識であったかを確認し、被告人の無罪を導くための主張を検討しました。

そのうえで、被告人質問で被告人に具体的にどのような認識だったのかを語らせたうえで、弁論において被告人が無罪であることを説得的なストーリーとともに裁判所に伝え、被告人が無罪であることを裁判所に伝えました。

刑事事件の弁護士を選ぶポイント

刑事事件の弁護人となってくれる弁護士を選ぶにはいくつかのポイントがあります。

刑事事件の弁護士を選ぶポイントをご紹介します。

刑事弁護の経験や実績が豊富な弁護士を選ぶ

刑事弁護は、十分な知識と経験がなければなかなかうまくできるものではありません。

刑事弁護の経験や実績が豊富な弁護士であれば、十分な知識や経験を兼ね備えており、刑事弁護をしっかりと行ってくれます。

刑事弁護の経験や実績は、弁護士のウェブサイトなどに実績などとして掲載されていることも多いため、それを確認するとよいです。

そのうえで、刑事弁護の経験や実績が豊富な弁護士を選び、弁護人として活動してもらいましょう。

熱心な弁護活動をしてくれる弁護士を選ぶ

熱心な弁護活動を行ってくれる弁護士を選ぶことも重要です。

弁護士の中には、忙しいからといって最低限のやり取りしかしてくれない弁護士もいます。

しかし、刑事弁護ではコミュニケーションが非常に大事なため、熱心にやり取りをしてくれる弁護士のほうがより弁護活動をうまく行ってくれる可能性が高いです。

熱心な弁護活動を行ってくれるかは、弁護士との初回相談などで判断するとよいです。

熱心な弁護活動を行ってくれる弁護士に弁護活動を依頼して、より良い結果を目指しましょう。

費用が明確な弁護士を選ぶ

私選弁護人を選ぶとなると、どうしても気になるのが弁護士費用です。

刑事弁護の弁護士費用は高額になりやすいので、費用が明確な弁護士を選ぶことはとても大切です。

弁護士のウェブサイトを見て、費用が明確に記載されているかを確認しましょう。

また、弁護士との初回相談の際に弁護士費用について分からない点を質問して、はっきりと答えてくれるかを確認するのもよいでしょう。

まとめ:起訴されたら刑事弁護に熱心な弁護士を弁護人に選ぼう

いったん起訴されてしまうと、被告人としての立場に置かれることとなります。

被告人となれば、刑事裁判を受けなければならないほか、その結果として有罪判決が下され罰金や懲役などの刑事罰を受ける危険もあります。

起訴されたら、しっかりと弁護活動を行ってくれる弁護士を弁護人として選ぶことが大切です。

特に、熱心で経験十分な弁護士に依頼して私選弁護人となってもらうことは、あなたの刑事裁判でより良い結果を勝ち取るためにとても重要なことだといえます。

刑事弁護に詳しい弁護士を弁護人として選び、できる限り起訴を回避し、仮に起訴されても重い結果を回避できるようにしましょう。

この記事の監修者

秋葉原あやめ法律事務所弁護士 岡島賢太

第二東京弁護士会所属

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