【弁護士監修】盗撮事件で加害者になった場合の慰謝料の相場はあるのか
公開日2022/06/28
更新日2022/08/03
カテゴリ盗撮・盗聴
【この記事のポイント】
- 盗撮の慰謝料の相場がどれくらいになるのかがわかる
- 盗撮で慰謝料交渉をしないリスクがわかる
意外に思われるかもしれませんが,盗撮につきましては,全国一律の刑事罰を定めた刑法では規定されておらず,一定の盗撮行為につき,各都道府県の条例によって刑事罰が定められています。
近年,盗撮については,処罰対象を拡大する傾向があり,処罰対象となった場合は,被害者の方への慰謝料の支払いが重要となります。
盗撮しようとして失敗した場合であっても、盗撮しようとしたこと自体が「卑わいな言動」として処罰されたり、カメラの設置行為として処罰されることもあります。
盗撮してしまった場合、被害者の方に対し慰謝料交渉を行うことがあります。
今回は盗撮した場合の慰謝料交渉や慰謝料交渉をしない場合のリスクについて確認していきましょう。
盗撮の慰謝料の相場はいくらになるのか?
盗撮したことが発覚した場合、被害者の方との示談交渉によって慰謝料を支払うケースが多くあります。
慰謝料とは加害行為によって被害者の方が精神的苦痛を受けた場合に支払う損害賠償金のことをいいます。
刑事罰の対象となる盗撮行為は、故意によって他人の権利を侵害する行為ともいえるので、被害者の方は加害者に対し慰謝料を請求する権利があります。
慰謝料というとなんとなく被害者側から請求されるお金というイメージを持つ方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、刑事事件の場合、被害者の方が慰謝料を請求するのではなく,加害者側が被害者の方に対して示談交渉を打診し、慰謝料等を支払うことは少なくありません。
盗撮された被害者の方の恐怖や嫌悪感等の感情は本来お金に換算できるものではありませんが、盗撮行為によって受けた精神的な苦痛を無かったことにすることはできないので、慰謝料というかたちで加害者の反省や謝罪を示すためです。
また被害者の方との示談が成立し、慰謝料等の金銭を支払うことは、不起訴処分や減軽を望むうえにおいてもとても重要な要素となります。
というのも、示談書の中には宥恕(ゆうじょ)条項が盛り込まれることが多いからです。
宥恕条項とは簡単にいうと「被害者は寛大な心を持って加害者を許しますよ」という意味です。
「被害者の方が加害者を宥恕しているか」、は検察官が不起訴にするかどうかの判断や、裁判官が減軽をするかどうかの判断に大きく関わってきます。
とはいえ盗撮事件はひとの性的な部分に関わる犯罪なので、被害者の方は加害者に対し強い不快感や嫌悪感を持つことは想像にかたくありません。
盗撮された場所が階段やエスカレーターであれば、階段やエスカレーター自体を使うことに恐怖を感じるようになったり、後ろに男性が立つこと自体に恐怖を感じるようになることもあります。
このような場合、被害者の方の気持ちとして、「どうしても宥恕はできない」という方も大勢いらっしゃいます。
とはいえ「被害回復がなされているか」ということは,検察官や裁判官の判断に関わってきます。
宥恕していただけない場合であったとしても,慰謝料を支払うことは不起訴処分や処分軽減への重要な要素になりますし,そもそも,被害者の方から民事裁判によって慰謝料請求された場合は,裁判所の判断によって慰謝料の支払い義務が認定されるものです。
また、加害者の道義的責任としても,慰謝料はお支払いすべきものといえます。
盗撮事件の加害者になった場合、被害者の方に対して具体的にどれくらいの慰謝料を支払う必要があるのでしょうか。
また相場はあるのでしょうか。
慰謝料は10万円から50万円になるケースが多い
盗撮の慰謝料の相場は盗撮行為の悪質性や常習性等によって大きく異なります。
常習性が無かったり、被害者の方の数が少なかったりした等、比較的悪質性が低いとみなされた場合の慰謝料の相場は、10万円から50万円程度とされています。刑事罰になった場合の罰金額が目安になりますので, 実務的には20万円から30万円の間になることが多いです。
ただし、慰謝料は当事者間の合意によって決まるので、必ずしも相場どおりにならず,示談金が高額になったり,示談が成立しなかったりすることもあるので注意が必要です。
悪質だったり被害者の方が複数の場合総額100万円を超えることもある
頻繁に盗撮を繰り返していたり、盗撮の被害者の方が複数いたりする場合は、総額100万円以上の慰謝料を支払わなければならないケースもあります。
例えば、同じ被害者の方への常習的盗撮であったり、撮影手法や撮影内容の反社会性であったりすると,悪質な事件として,慰謝料が高額になることも考えられます。
また、盗撮画像や動画をインターネットにアップロードをした場合や、第三者に販売目的で盗撮を行った場合は、悪質性が非常に高いとされ、慰謝料はかなり高額になることが予想されます。
被害者の方が18歳未満だと児童ポルノ禁止法違反の可能性も
盗撮の対象者が18歳未満の場合は、通常盗撮で問われる罪である各都道府県の迷惑防止条例違反ではなく、「児童ポルノ禁止法」(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律)に違反する可能性もあり、より悪質な犯罪と判断されることもありえます。
この法律で定義されている「児童」は、18歳未満の者を指すので、中学生や18歳未満の高校生も含まれます。
とはいえ,実務上は,被害者の方が18歳未満であったとしても,駅やエスカレーター等での盗撮については,迷惑防止条例違反として事件化されることが大半です。
慰謝料を支払わない場合起訴される可能性が高くなる
盗撮を行った場合、被害者の方との示談交渉自体していない場合,示談が不成立の場合、示談成立後、支払期日までに慰謝料を支払わなかった場合、起訴される可能性が高くなります。
被害者の方には慰謝料交渉や示談交渉に応じる義務はありません。
したがって、処罰感情が強く交渉に応じてくれなかったり、決裂したりすると以下のような罪で起訴されたり有罪判決を受けたりする可能性があります。
罪名 | 違反に当たる行為 | 罰則 |
迷惑防止条例違反 | 下着や衣服で隠れている身体を、衣服を身に着けていない場所または公共の場所、乗り物等で撮影すること(※) | 1年以下の懲役、または100万円以下の罰金 |
軽犯罪法違反 | 他人が衣服をみにつけないような場所(浴場、更衣室、トイレ等)をひそかに覗き見る | 1か月以下の拘留、または1000円以上1万円以下の科料 |
住居・建造物侵入 | 盗撮目的で他人の住居に侵入した | 3年以下の懲役、または10万円以下の罰金 |
児童ポルノ法違反 | 盗撮の対象が18歳未満 | 3年以下の懲役、または300万円以下の罰金 |
※迷惑防止条例は各自治体によって適用される罰則が異なる場合があります。今回は東京都の条例を基にしています。
一般に、被害者の方が警察に被害届を提出して事件化すると、逮捕・勾留という身柄拘束を受けることもありえます。
盗撮の場合は在宅事件として身柄拘束は行われないことが多いですが、否認していると逮捕されやすい傾向にあります。
逮捕は最大72時間(3日間)、勾留は原則として最大10日間、延長された場合には20日間、身柄が拘束されるリスクが生じます。
なお、最近では、被害者の方の被害届がなくとも、目撃者の通報により事件化することもあります。
また、検察官が起訴する必要があると判断した場合は、刑事裁判を受けて有罪か無罪か判断することになります。
刑事裁判で有罪判決が下されると、懲役刑や罰金刑を受けなければならず、有罪判決が確定すると前科が付くため、生活に悪影響が生じるおそれがあります。
被害者の方と慰謝料の交渉を行う方法とは?
盗撮事件で被害者側との示談を成立させるかどうかは、今後の処遇に大きな影響を及ぼすことになります。
そのため早期に被害者の方と示談交渉を行うことが大切です。
交渉の方法として、大きく分けて以下の2通りがあります。
- 自分で被害者の方に連絡して示談交渉する
- 弁護士に依頼して示談交渉してもらう
自分で被害者の方に連絡して示談交渉する
加害者本人が被害者の方と連絡して示談交渉を行うことが考えられます。
ただし、加害者本人が直接示談交渉を行うのは、非常に難しいといってよいでしょう。
というのも前提として被害者の方の連絡先を知っている必要があるからです。
刑事手続きが進んでいる場合、警察等の捜査機関は被害者保護を目的として加害者本人、もしくは加害者の家族に被害者の方の連絡先を教えたがりません。
そのため、交渉する以前の問題として被害者の方と連絡を取る手段がないと考えられます。
仮に、被害者の方の連絡先を知り、加害者本人が被害者の方と直接交渉できる状況があったとしても、被害者側から警戒され示談がまとまらないケースは十分に考えられます。
被害者の方から二度と会いたくないと思われて、門前払いされることも少なくありません。
このような理由もあって、加害者本人が被害者の方と示談交渉を行うのは非常に難しいといえるでしょう。
仮に被害者の方の連絡先がわかったとして、示談交渉のテーブルにつけたとしても当事者同士だと話し合いの際に感情的になって、上手くまとまらないケースが多くあります。
被害者の方がすでに盗撮行為によって大きな精神的ダメージを負っている状況で、加害者本人と直接交渉をしなければならないとなると、精神的負担が増します。
また、加害者の不用意な言動によっては被害者の方を深く傷つけるおそれがあります。事件の当事者同士では、このような感情的な対立が避けては通れません。
一刻も早く示談を成立させる必要があると焦って冷静さを欠き、被害者の方に対して「示談書に署名しないと痛い目に合わせるぞ」等の強要行為や脅迫行為を行う加害者もいます。これでは、示談をまとめるどことか、さらに罪を重ねることになり、刑事処分等が避けられない事態になるケースもあります。
そのため、ご自分で示談交渉を行う場合、被害者の方には充分に配慮する必要があります。
また、示談書の内容につきましても、できるだけ法的に問題のないようにご自身でしっかりと調べていただくことも大切です。
弁護士に依頼して示談交渉してもらう
加害者が弁護士に依頼して被害者の方との示談交渉を行ってもらうことも考えられます。
加害者本人が行うケースとの相違点としては、弁護士であれば、捜査機関に被害者の方への連絡を仲介してもらえます。
具体的には,弁護士が捜査を担当している警察官又は検察官に対し,謝罪と被害弁償の申し入れをすることで,担当捜査官が,被害者の方に連絡を取ります。
担当捜査官は被害者の方に対し、「犯人の弁護士が謝罪と被害弁償をしたいと言っているけど、話を聞く気はありますか」と尋ねてくれます。
その際、被害者の方が話を聞く気があるということでしたら、被害者の方の連絡先を「弁護士に限り」ということで捜査官を介して伝えてもらえることが一般的です。
ただし対応はあくまで捜査官や被害者の方次第なので、弁護士の連絡先を被害者の方に伝えることで,被害者の方からの連絡待ちということになることもあります。
もちろんこの方法でも被害者の方が示談の話し合いを拒否することは当然あり得ますが、加害者本人が行うよりも、弁護士に依頼した方が被害者の方との交渉を行う機会が得られやすいといえるでしょう。
被害者の方との示談交渉を適切かつスムーズに行うことができ、示談がまとまりやすいといえます。
また,示談書自体も,法的にできる限り問題が出ないように弁護士の知識が入ったものになります。このように示談交渉を弁護士に依頼するメリットは数多くあります。
盗撮事件は今後の生活や人生に影響するので弁護士への依頼も有力な選択肢
盗撮事件を起こしてしまった場合は、なるべく早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士であれば、被害者の方との交渉を行う機会が得られやすく、加害者と対面するよりも心理的負担が少なく、交渉に応じてもらいやすいといえます。
また、刑事事件の経験豊富な弁護士に依頼することで、交渉のタイミングや進め方、まとめ方等、被害者の方の感情に配慮した適切な対応ができます。
さらに過去の事例をもとに示談金の目安等も十分に理解しているため、過不足のない適当な額を提示することができ、示談を成立しやすいといえます。
示談書を作成するのにも法的知識が必要になるため、弁護士という法律のプロに作成を依頼することで、法的リスクのない示談書を作成することもできます。
どのような弁護士を選ぶのかは難しいポイントですが,示談交渉は被害者の方との交渉ですので,知識や経験に加え,口調・話し方といった点もふまえ,被害者の方でも安心して話ができると思えるような弁護士を選ぶというのも一つの考え方だと思います。
まとめ
盗撮事件を起こしてしまった場合の慰謝料の相場や慰謝料を支払わないことのリスク等について解説しました。
盗撮事件では、被害者側との示談が今後の処遇に大きな意味を持ちます。お悩みの際は、刑事弁護に精通した弁護士に相談しましょう。
この記事の監修者
岡崎刑事総合法律事務所庫元 健太郎弁護士
【所属】愛知県弁護士会
岡崎刑事総合事務所は、三河地域唯一の刑事事件に特化した法律事務所です。代表を務める弁護士・庫元 健太郎は、弁護士登録以降、数多くの刑事事件や少年事件に対応して参りました。加害者の方が「罪を犯した」ことを心から反省し、償い、それから先の未来を創るお手伝いができるような刑事弁護に尽力しておりますので、お困りの方は一度ご相談ください。
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