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【弁護士監修】器物損壊をしたときに損害賠償しないリスクを知ろう

【弁護士監修】器物損壊をしたときに損害賠償しないリスクを知ろう

公開日2023/03/17

更新日2023/07/04

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弁護士法人ユア・エース正木 絢生弁護士

他人の物を破壊してしまった場合、器物損壊罪に問われる可能性があります。

とはいえ、悪気なくうっかり、他人の物を壊してしまうこともあると思います。

このような場合でも器物損壊罪が成立するのでしょうか。

今回は、器物損壊の賠償責任や弁償しない場合にはどうなるかについて、解説をしています。

【この記事のポイント】

  • 器物損壊罪が成立する条件を知れる
  • 他人の物を壊したときに弁償しないリスクがわかる

器物損壊罪とはどんな罪?

器物損壊罪で有罪になった場合、3年以下の懲役または30万円以下の罰金、もしくは科料が科される可能性があります。

警察庁が発表した「令和によると器物損壊罪の認知件数は56,925件で、最も認知件数の多い窃盗罪に次いで、認知件数の多い罪です。

器物損壊罪が成立する具体的な条件とはどのような物なのでしょうか。

確認していきましょう。

他人の物を故意で破壊する行為

器物損壊罪は、他人の物を「故意」に壊したことが前提に成立する罪です。

そのため、「うっかり壊してしまった」「不注意で汚損させてしまった」といった、わざと壊していないケースでは罪に問われません。

ただし故意でなかったとしても、他人の物を壊した以上、破壊した物の所有者が持つ「所有権」を侵害したことになります。

そのため、弁償しない場合には所有者の方から、「所有権を侵害した」という理由で、損害賠償請求される可能性がありますのでご注意ください。

器物損壊罪の対象となる「物」の範囲

器物損壊罪の対象は、基本的に「他人が所有している物」が対象になります。

その他、次のような場合には所有権が自分にあったとしても、器物損壊罪の対象となります。

  • 差し押さえされている物

差し押さえや担保に設定している物については、その物に価値があるから差し押さえられたり、金融機関が担保に設定したりします。

そのため、自分の物であっても価値を貶めるような破壊行為や汚損行為をしてはいけないのです。

また他人に貸し出している物についても、借りている人は貸している人に対して、金銭等の対価を払って「物」を借りています。

借りている人は物を管理したり使ったりできる「賃借権」を持っているので、たとえ所有者であっても他人に貸している物を勝手に壊してはいけないのです。

更にいうと「器物」の中には、生き物も含まれています。

他人のペットに傷をつけてしまったり、殺害をしてしまったりした場合にも、器物損壊罪に問われる可能性があります。

器物損壊罪は基本的にすべての他人の物、状況によっては自分の物を破壊したり、汚損したりすると問われる可能性のある罪ですが、例外もあります。

【器物損壊罪の対象とならない物】

①公用文書…公務員が職務を行うために国や地方自治体によって設けられた公務所で保管されている電磁的記録を含む文書のことを指します。

公用文書は、「公用文書等毀棄罪」があるため器物損壊罪の対象外となります。

②私用文書…権利や義務に関することが記載された電磁的記録を含む文書のことを指します。

私用文書は、「私用文書等毀棄罪」があるため器物損壊罪の対象ではありません。

③建造物…建造物とは、文字通り建物のことを指します。建物だけでなく付属する塀や門扉等も建造物の範囲です。

建造物は「建造物損壊罪」があるため、器物損壊罪の対象外です。

他人の物を壊したり、汚したりすると器物損壊となる

器物損壊罪の条文には、「他人の物を損壊し、又は傷害した者は」と定められています。

条文で定められている損壊・傷害の意味とは、「物の効用を害する一切の行為」であるとされています。

「物の効用を害する」とは、破壊行為によってその物の本来の価値を失わせ、使用することを不可能にすることを指します。

器物損壊罪の対象となる「物」には、動物等の生き物も含まれます。

そのため、「物」が「生き物」を指すときには、「生き物を損壊させる」とはいわず、「傷害させた」

というため、損壊と傷害と定められています。

通常、「損壊」というと、直接的に物を壊すことをイメージする方も少なくないかと思います。

しかし、器物損壊罪は直接的に物を壊さなくても成立するケースもあります。

実際に器物損壊罪が成立し、有罪となった判例を紹介したいと思います。

■徳利とすき焼き鍋に放尿(明治42年4月16日大審院)
被告人がすき焼き店で徳利とすき焼き鍋に放尿した事件で、当初、直接物を破壊していないので器物損壊には当たらないとされていました。
それを受け、大審院(現在の最高裁)では、次のように判断しました。
物質的に器物その物を損壊させた場合に限らず、事実上若しくは感情上その物をして再び本来の目的の用に供することができない状態に至らしめる場合をも包含せしむる物と解釈するべき
放尿された徳利やすき焼き鍋は、洗ってしまえば衛生上問題ありません。
しかし、この場合放尿された徳利やすき焼き鍋は客の飲食用として利用する物です。
洗って衛生面的には問題なかったとしても、精神的には使用したくはないというのが一般的な感覚です。
この判決では、器物損壊罪は物質的に破壊されるだけでなく、機能を失っていなくても汚損されて事実上物が使えない状態、精神面でその物の利用できなくなった状態の場合にも適用されるとしています。

また、その他にも養魚地の鯉を流失させることは傷害にあたるとした判例や、自動車のタイヤの空気を抜いて走れなくすることなども器物損壊罪に該当するとされています。

器物損壊罪は告訴があって成立

器物損壊罪は、被害者等から告訴が必要な罪です。

親告罪は、被害者による告訴がなければ検察が公訴を提起する、つまり起訴することができない罪を指します。

告訴できる権利を持てるひと人は、原則として被害者の方本人になりますが、被害者の方が未成年等の場合には親権者や後見人等の法定代理人が対象です。

器物損壊罪が親告罪とされている理由として、侵害された法益が比較的軽微な物であり、また、民事訴訟などを通じて当事者同士で解決を計ることが可能であるからとされています。

他人の物を壊して弁償しないリスクとは

喧嘩や争いをして感情が昂ぶり他人の物を故意に壊してしまったとき、冷静になって被害者の方に被害弁償を申し出る方も少なくないと思います。

しかし、中には「相手も悪いんだから」という理由で被害弁償の意思を見せない方もいるでしょう。

被害弁償の意思を見せずそのまま放置すると、後になって大きなリスクとなってしまうことがあります。

具体的にどのようなリスクがあるのか確認していきましょう。

逮捕されて身柄拘束される可能性がある

器物損壊罪を検察が起訴する条件として、被害者の方からの「告訴」が必要です。

被害者の方が、「被害弁償しないのは許せない」と告訴した場合、警察等の捜査機関の捜査が開始されます。

捜査の中で、警察は犯人の疑いが強いひと人に対して任意での取り調べを行うことがあります。

「任意だから」といって取り調べに非協力的な態度をとると、逃亡や証拠隠滅の恐れがあると判断され、逮捕されてしまう可能性があります。

逮捕後、身柄が検察に送られると、検察官から取り調べを受けます。

そのときに、「身柄を解放したら逃亡や証拠隠滅の恐れがある」とみなされると勾留請求されてしまう可能性が高くなります。

検察官が裁判所に対して勾留請求を行い、裁判所が許可した場合、被疑者は原則最大10日、拘留の延長が許可されたときには最長で20日身柄を拘束されることになってしまいます。

更に検察官が起訴した場合、被告人勾留といって更に身柄拘束の期間が長くなる可能性もあります。

他人の物を壊して、被害弁償しないでいると長期間の身柄拘束のリスクがあるのです。

有罪判決を受けるリスクが上がる

器物損壊で被害弁償をしないでいると、有罪判決を受けるリスクが上がります。

有罪判決を受けると前科がつきます。

たとえ、罰金や1万円未満の科料だったとしても有罪判決を受けた以上、前科がつくのです。

器物損壊は、被害が軽微なものであれば、罰金刑や科料に処される可能性が高いです。

しかし、複数回におよび罪を犯していたり、犯罪内容が悪質だったりすると最悪の場合、実刑に処されることもあるのです。

器物損壊は被害弁償が非常に重要

他人の物を壊してしまったり汚損してしまったりしたときには、被害弁償等をしてできるだけ早く被害者の方との示談を成立させることが大切です。

被害弁償を行うことで被害者の方の処罰感情が和らぎ、告訴しない方向で話がまとまりやすくなります。

また、仮に現時点で告訴されていたとしても、早期に示談が成立すれば、告訴が取り下げられて不起訴処分を得られる可能性が高いです。

器物損壊罪は親告罪なので、被害者の方の処罰感情次第で、起訴されるかどうかが決まる可能性が高いです。

そのため、ご自身に降りかかる不利益を最小限に抑えたいと思うのであれば、一刻も早く被害弁償した方が良いのです。


器物損壊で交渉がうまくいかないときは弁護士へ相談すべき

被害弁償というと、壊した物の修理費用や、購入費用を補填すれば良いと考えている方もいるかもしれません。

しかし壊した「物」が、被害者の方にとって長年愛用していたものであったり、故人からの贈り物であったりしたような場合、簡単には解決できない問題もあります。

このようなケースでは、被害者の方との話し合いで、修理費や購入代金とは別に、物を壊されたときに受けた精神的な苦痛の対価として慰謝料を請求されることがあります。

慰謝料の金額等をめぐって、被害者の方と折り合いがつかない場合どのように対応すればいいのでしょうか。

当事者同士の話し合いで決着がつかないときには、刑事事件に精通した弁護士に相談した方が良いでしょう。

弁護士が代理人として代わりに交渉することによって、示談がまとまる可能性が高くなります。

また弁護士に依頼すれば、示談書を作成してもらうこともできます。

示談書を作成すれば、示談の合意内容に関するトラブルを避けることができます。

まとめ

器物損壊罪は、親告罪なので被害者の方からの告訴がなければ起訴されることのない罪です。

しかし、しっかりと被害弁償をしないと、被害者の方から告訴をされ、有罪判決を受けてしまう可能性があります。

そのため、他人の物をわざと壊してしまい、被害者の方と示談交渉を望む場合には弁護士に相談をしましょう。

この記事の監修者

弁護士法人ユア・エース正木 絢生弁護士

【所属】第二東京弁護士会所属
刑事事件の弁護は、迅速な対応することによって、早期の身柄釈放や、執行猶予、減刑が望めます。
しかし、それを実現するためには、前提としてご依頼者の方と弁護士に信頼関係がなければなりません。
理想である依頼者の方に安心してもらえる弁護士になれるよう日々尽力しておりますので、刑事事件でお困りの際はご連絡ください。

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